月鏡76

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「携帯を捨てれば大丈夫じゃなかったのかい?」
 不機嫌そうな声で富貴子がフランケンに問いただした。
「良太には上着に別のGPS仕込んであるんで」
 京助はそう言って良太の腕を引いた。
「ことを荒立てたくなければ、とっとと良太を連れて帰りますがね、次はないと思えよ。今後何か良太にやらかしたら、警察沙汰は必須だ」
 きつい言い方で京助は富貴子を睨み付けた。
「全く、外の見張りは口ほどにもないね。素人にやられちまうなんざ」
 そう口惜しそうでもなく富貴子は言った。
「じゃ、そういうことで」
 京助が良太を連れて踵を返そうとしたその時、「ちょっと待ちな」と富貴子が凄みのある声で呼び止めた。
 良太や京助らが振り返ると、富貴子は、「何でわざわざこんな面倒なやり方で良太ちゃんを連れてきたと思ってるんだ」と言う。
「だから、さっきから何の用ですかって聞いたのに、昔話ばかりで」
 良太は怪訝そうな顔で言った。
「フン、ちょっとくらい昔話に付き合ったからって、バチはあたらないだろう。こないだ良太ちゃんを返してから、思い出したんだよ。第一、せっかくここまで来て、とっとと用を済ませたら、じゃあさようならって、あんまり寂しいじゃないか」
 富貴子の顔がちょっと寂し気な気もしないではないのを見て、ふう、と良太はため息を吐いた。
「何ですか?」
 すると富貴子はフランケンに目で合図をした。
 フランケンは奥へ引っ込んだかと思うと、紫色の袱紗に包まれたものを大切そうに持って来て富貴子に渡した。
 富貴子は袱紗を開いて、紺のベルベットの細いケースを取り、蓋を開いた。
「もともとさぎりにやろうと思っていたんだが、あっけなく逝ってしまって、高広は恋人に死なれて以来、ちっとも次の相手を探す気配もありゃしない。そこへ、良太ちゃんが現れて、どうやら良太ちゃんが高広の大事な人間らしいからね、良太ちゃんにもらってほしいんだよ」
 それはおそらくヨーロッパ辺りで造られたのだろう細かな宝石や金で装飾が施されたアンティークなロケットペンダントだった。

 


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