月鏡85

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 ひとみや竹野は、まだこれから腰を据えて飲むらしかったが、良太は日付が変わる前に暇を告げた。
「次は正月かな?」
 出がけに宇都宮がにっこり笑った。
 気の毒に、付き合わされる須永も酒は強くないが、いつものことで、寝てしまうだけだ。
 しかし、ほんと、宇都宮さんっていい人だよな。
 いやまあ、正月に逢えるかどうかはわからないけどさ。
 良太はタクシーの中で宇都宮の笑顔を思い出していた。
 人気実力があって、カッコいいとくれば、大抵上から目線の俺様俳優が多いのに、真面目なんだよな、どっちかっていうと。
 ファッションで犬を飼うわけじゃないとか、さ。
 何だかなあ。
 あんな人好きにならない方がおかしいよな。
 俺も、工藤がいなければ、あり得ないことはないかもだけど。
 しょうがないよな、こればっかしは。
 気持ちの行く末なんて、わからない。
 そういえば、佐々木さん、CMで本谷くんと逢うみたいだけど、本谷も頑張ってんだろうな。
 本谷、工藤のこと、どうしたんだろうな。
 俺がとやかく言うようなことじゃないけどさ。
 何か、昔の俺見てるみたいでさ。
 タクシーを降りると、三日月が陰っていた。
「明日雨降るとか言ってたっけ」
 冷たい雨になりそうだ。
「とにかくこれ以上厄介ごとが起きなければいいんだけどな……」
 良太はふと口にしてから、何やら嫌な予感が胸をよぎった。
 週刊『東京芸能』が妙な記事を載せているのを見つけたと、嘱託カメラマンの井上がオフィスに寄って良太に雑誌をつきつけたのは翌朝のことだった。
 アスカと沢村の顔写真がデカデカと見開きに載り、関係者の話として暗に青山プロダクションとアスカが人気選手を利用したやらせ記事をスポーツ紙にスクープさせた云々とこき下ろした文言がダラダラと続いている。
 ただしネットでもその手の記事を探したが、他にはこれと言って似たような記事もみあたらず、なのに、メジャーというほどではない『東京芸能』だけにそんな記事が載っているのが、非常に妙なのだ。

 


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