まあ、工藤なんかも祖母がヤクザの組長なんかと一緒になったもんだから、縁を切っているとはいえ警察には組長の甥としてマークされ、何の関係もないはずがヤクザの抗争にまで利用されたりと、突拍子もない人生を送ってきたわけで、良太を幸せなヤツと笑う工藤には何も返すことができない。
いや、鈴木さんもDVの旦那から逃げてやっと平穏な暮らしを得たのだと言ってたっけ。
要は人それぞれ、いろいろあるってことだよな。
ただ一つ良太に言えることは、家族に暴力をふるったり、自分の思い通りにできないからと子供の身辺を探らせたり、そんな奴らはほんとの家族じゃないってことだ。
良太は義憤に駆られて思わず拳を握る。
ところがそんな時、マネージャーの秋山を伴ったアスカが現れ、「どうしちゃったの? 沢村、小田先生なんかと」と良太に聞いてくる。
おまけに小田が帰ると、「おい、良太、お前、T大法学部なんか出てるくせに、何で弁護士じゃねーんだよ!」などと沢村が八つ当たりをぶつけてくる。
「うっせーよ! 俺は学生時代野球しかやってなかったんだよ!」
全くこのクソ忙しい時に、と良太こそ八つ当たりしたい気分だった。
おまけに、鈴木さんにお茶をすすめられて、アスカの向かいに座って、藤堂の土産のブラウニーを睨み付けた沢村は、結局アスカに事の顛末を吐露させられるはめになった。
「バッカじゃない?」
沢村は良太に続いてアスカにもストレートなご意見を食らった。
「まさか佐々木ちゃんの名前とか出してないでしょうね?」
「それはない!」
「だったら、今までにもそんなスクープはあったわけで、そこで何で小田先生? 沢村宗太郎に対する訴訟や名誉棄損なんてことになるわけです?」
それまで黙って聞いていた秋山も口を挟んだ。
「問題はそこなんです。以前にも沢村宗太郎が興信所か何かを使って俺の調査をしていた節があって」
渋面のまま沢村は答えた。
「ああ、なるほど、今度もやるかもしれない、しかも佐々木さんを巻き込むかもしれないことを懸念しているというわけですね?」
「もう既に変な奴が周りをうろついてますよ」
ブラウニーを一気に食べて紅茶を飲み干した沢村は、吐き捨てるように言った。
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