月鏡93

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「工藤家にはそうですけど、工藤の孫ってのは、あちらさんにもいるわけでしょ? ほら、工藤がいつもいう、俺の伯父って人の娘とか」
 良太は想像をたくましくして、極道の娘を頭に思い描く。
「さぎりさん、てきれいなひとやな。魔女も大事に思うてはったんやないか? さぎりさんの写真が入ってるペンダントなんて、工藤さん以外欲しがらへんやろ」
「第一、知らねぇんじゃないのか? ババア以外」
 京助が首を傾げてフンっと鼻を鳴らす。
「写真でしか知らないし、哀しむ要素もないとか言って、受け取らないですよ、工藤さん」
 良太が文句を口にする。
「まあ、せやな。俺かて母親は大事やったけど、母親の写真入れたペンダント、あっても欲しいとか思わへんし。けど魔女には大事な娘やったから、工藤さんが受け取らへんのはわかっとったから良太に渡したんちゃう? 要は工藤さんの意思がどうとかやのうて、魔女が渡したかっただけやし」
 さらりと千雪が解説したところで、オフィスのドアが開いて工藤が戻ってきた。
「お帰りなさい」
 鈴木さんや良太が声をかけたが、そのまま工藤を待っていた男たちの方へ歩み寄った。
「工藤だ。先日は急で厄介な仕事にも関わらず対処してくれて非常に有難かった」
 工藤はコートも脱がずにみんなを見回して、簡潔に礼を言った。
「そこでだ。それぞれ仕事もあることだろうが、もし、できれば可能な限りで結構だが、また何かの時に用心棒的な仕事を頼んでも構わないか?」
 この発言に良太は驚いた。
「ひょっとしたらうちのタレントや社員、が対象ということもあるかもだが、主にこの良太だ。いつも四人でなくても、都合がつく者だけでいい」
「え、ちょ、工藤さん! 俺だって自分で何とかできますし、何かって、もう魔女オバサンは襲ってこないでしょう?」
「お前ひとりで何とかできない時の話だ」
 工藤は良太の抗議には耳を貸すつもりはないようだ。
 加藤を始め辻、山倉、白石の四人は、互いに顔を見合わせた。
「俺は構いませんよ」
 加藤が言った。
「右に同じ、やな?」
 辻が言うと、山倉や白石も頷いた。
「異議なし」

 


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