月鏡94

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「では、よろしく頼む。連絡は加藤でいいか?」
「いいですよ」
 加藤が言った。
「よし、決まりだ。今夜は千雪、何でもこいつらにおごってやれ。領収書は俺に回していいぞ」
 途端、男たちから野太い声で、「ありがとうございます」という声が返る。
 工藤は不満そうな良太など無視して、たったか決めると、「出かけてくる」とまたドアへと向かう。
「ちょ、工藤さん! すきっ腹に酒ばっか飲まないでくださいよ!」
「わかった、わかった」
「全く、あの人は勝手なことばっか!」
 ぶすっとした顔の良太を、「工藤さん、良太ちゃんのことが心配なだけよ」と鈴木さんが慰める。
「まあ、ええんやない? ああいう輩だけやのうて、タレントもおるこっちゃし、こいつらも仕事もらえて有難いわけやし」
 千雪も良太を宥めにかかる。
「はあ、それはそうなんですけど……」
「お前、自分の腕っぷしが弱っちいことはわかってっだろうが。意地を張らずにこいつらに任せておけばいいんだよ」
 良太の気持ちを逆撫でする京助を、良太はジロリと睨む。
 どうせ弱っちいよ、俺は!
 けど、これじゃ、俺が何の役にも立たないってことじゃないかよ!
「やっぱ、焼き肉!」
「それっきゃない!」
「どこ行く?」
「そら、西麻布牛若やろ?」
 四人は早速これから繰り出す算段をしている。
「良太も仕事切り上げて一緒に行くやろ?」
 千雪に誘われ、焼き肉というキーワードに、良太の腹の虫も泣きそうだ。
 時間は五時になろうとしている。
「いいわよ? あとは私が閉めておくから」
 鈴木さんも快くそんなことを言ってくださる。
「くっそ、こうなったら、食ってやる!」
 決意も新たにする良太に、男たちが笑う。
「じゃ、ちょっと待ってください、パソコン落としてくるんで」
 良太は慌ててデスクに戻ると、パソコンの電源を落とし、コートを持ってオフィスを出る皆のあとを追う。
「それじゃ、すみません、行ってまいります!」
「いってらっしゃい」
 鈴木さんににっこりと送られて良太はコートを羽織りながら階段を降りる。
「あ、皆さん、車とかバイク、ここに置いといて構いませんから」
 良太が言うと、おおっと歓声があがる。

 


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