月鏡95

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「よっしゃ!」 
「これで気兼ねなく飲める!」
 そうだ、と良太は前を行く千雪に並んだ。
「酔っぱらわないうちにお伝えしときますけど」
「何や?」
 まるで良太が言わんとしていることを察知したかのように千雪が怪訝そうな顔を向けた。
「次、『今ひとたびの』で行く予定です」
「行く予定て、こないだ、ドラマ終わったばっかやろが」
「来年の話ですから、キャスティングはまだですけど。大澤さんらのスケジュールは一応おさえてあります」
 千雪はじっと良太を見た。
「お前、やっぱ工藤さんに似てきたな」
「ちょ、だからやめてくださいよ、これはただの仕事です」
 千雪と良太がそんなことを言い合いながら歩く後ろを京助がついて行く。
 後ろをちんたら歩いていた四人だが、白石が加藤の腕を肘でつつく。
「確かに、カッコよかったわ!」
「だろう?」
 フフフと笑う白石に、加藤がドヤ顔を向ける。
「でぇも、ダメじゃん。あの二人の間に入るスキなんかないわよ」
「え? 何だよ、あの二人って」
 聞き返す加藤に、白石が、「ほんとにあんたって鈍感」と言い捨てる。
「どういうことだよ?」
「だから、社長と良太ちゃん。工藤さんは良太ちゃんが心配で仕方ない、良太ちゃんは無理をする工藤さんが心配で仕方ない」
「おい、って、まさか」
「できてるわよ、あたしの目はごまかされないわよ」
「はあ?」
 目が点になる加藤に、白石は続けた。
「大体、あの極妻が何で良太ちゃんにペンダントを渡そうとしたか、考えてみなよ。もとはといえばあのネットに出回った動画、見直してみたの」
「工藤さんが怒ってるやつかよ?」
「その前に、工藤さん、良太ちゃんが倒れてるところへ駆け寄ってるじゃない? それを見て極妻も察したのよ」
「ほんとかよ」
 二人の会話を後ろで聞いていた辻が笑う。
 白石が振り返って、「何笑ってんのよ」と凄んだ。
「いや、残念やったな、せっかく理想のダーリン現るか、やったのに」
「うるさいわよ。まあ、良太ちゃんなら許すっきゃないか」
 そこへビル風が勢いよく吹き抜けた。
「きゃあ! 寒!」
 白石がジャケットの前を掻き寄せる。
 世の中は今年もやがて来る忙しない師走へと突入しようとしていた。
 沢村の一件は、小田弁護士のお陰で何とか一件落着となったことで良太はひとまず胸を撫で下ろしたのだが、その後の沢村と佐々木の間にひと悶着起こったことはまた別の話となる。

おわり
 


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