「うぎえーーーっ、なんじゃ、こりゃあ!!」
静かな乃木坂のオフィスに無粋な喚き声が響き渡ったのは、桃の節句も過ぎて、時折強烈な春の嵐に見舞われながらも暖かな日差しが混じるようになった三月も始めのことである。
「ちょっとぉ、うるさいわよ、良太。大きな声出さないでくれる? ただでさえ朝早くたたき起こされて頭に響くんだから」
常人ならちょっと早いお昼というところだろうが、ここ青山プロダクションの看板女優である中川アスカは窓辺の大きなソファに座り、ブランチ用のサンドイッチを片手に品よく紅茶をすすると、眉を顰めた。
「だって、どういうことだよ、何だよこれ、冗談も程ほどに……!」
今日発売の写真週刊誌をバシバシ叩きながら、広瀬良太は尚も声を上げた。
「あたしに言ったってしょうがないじゃない」
珍しく会社の始業間もなく現れたアスカから、何の説明もなく、ハイ、これ、と渡された。
何だろう、もしやまた工藤が誰かとツーショットでも撮られたのだろうか、と、興味津々、反面ドキドキしながら半分くらいページを繰ったところで、良太はそれを見つけたのだ。
「良太もいよいよ、二代目工藤高広ってとこかな」
「ちょ……秋山さんまで、いい加減にしてくださいよぉ……」
ソーサーごとカップを持ったままアスカの横に立っている秋山の笑いを含んだ声に、良太はガックリ肩を落とす。
「まあ、可愛く写ってるじゃない、良太ちゃん」
いつの間にか良太の手から雑誌を取り上げてしげしげと眺めた鈴木さんが、ほほほ、と笑う。
「うう……鈴木さんまで……いったい、全体、何が、何で………」
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