月の光が静かにそそぐ10

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 『美聖堂』の斎藤と聞くなり、後ずさるように自分のデスクに逃げ帰る良太を、工藤はフンとせせら笑う。
 大手化粧品メーカーの『美聖堂』は、何年も前から青山プロダクションの大事なスポンサーではあるが、その理由はワンマン社長の斎藤に工藤が気に入られているところが大きい。
 ついでに『美聖堂』がメインスポンサーとして四月から放映予定の『遠き灯』には工藤とは長年のつきあいである山内ひとみもアスカの義理の姉という重要な役どころで出演しているのだが、大抵この山内ひとみとセットで工藤は斎藤に呼びつけられるのである。
 何がというわけではない、二人を気に入って会社のトップとしてはおいそれと口にできないようなことも聞いてもらいたい、くらいのものなのだが、それに一度良太を同行させたことがあった。
 ウワバミたちの相手で夜を明かし、ヘロヘロになってロケ地の会津までその足で向かった良太は、福島空港に着くまでのわずかな時間アテンダントに起こされるまで爆睡した。
 着いたら着いたで例によって監督と脚本家が揉めているところへ間に入り、その上、山之辺芽久が衣装が合わないとごね始め、散々な一日を送る羽目になったのだ。
 それはまだ良太の記憶に新しく、斎藤は金輪際付き合いは遠慮したい相手なのである。
 工藤もその話は聞いていた。
 まあ、ちょっとまだ、斎藤さんの相手はむりか。
 工藤は笑いながら、さすがに疲れを感じつつデスクに向かい腰を下ろした。
 そんな様子を見やった良太は、どうせ工藤のことだから、斎藤に良太を引き合わせたというのは、いずれまた自分の代わりに良太を人身御供に差し出そうという魂胆があるに違いないと睨んでいる。
 危ない、危ない、自分から火の中に飛び込んじまうとこだった。
 この頃ようやく良太にも工藤という男について少しばかりわかってきたことがある。
 かつてMBC時代、敏腕プロデューサーとして名を馳せ、MBCを辞めてこの青山プロダクションを興したときも、MBC時代からのスポンサーや広告代理店との付き合いがあってこそ順調な滑り出しをした、という。

 


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