月の光が静かにそそぐ12

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 わかってきたことはもう一つある。
 ドキュメントの番組作りに対しては、MBC時代からの悪友でフリーとなった今は、好きなときにバックパック一つ背負って世界の果てまでも行ってしまうという、ディレクター下柳同様、結構熱いものをもっているらしいことだ。
 特に自然や地球温暖化などに関しては下柳のように熱弁を振るうことはないにせよ、機会さえあればそれこそ今ある仕事も良太や秋山に丸投げしてそっちに飛びつきたいのだろう。
 だがいかんせん、一国一城の主ともなれば、どうしても放り出すわけに行かないものもある。
 今年の初めに放映されたドキュメント『知床』も本当は工藤自身がやりたかったものなのかもしれない。だが、それを工藤が良太に託してくれたことは嬉しかったし、初めてこの会社に入って携わってよかったと思える仕事だったのだ。
 何より、自然というものをもっと知りたいと思い、また工藤の思いを自分も体感できたことが大きかった。
「おい、良太」
 じんわりと知床の自然と向き合ったときのことを思い描いていた良太は、オフィスを一旦出てまた戻ってきた工藤に顔を上げた。
「はい」
「明後日の夜、スケジュールあけとけよ」
「え……はい……」
 ひょっとして久しぶりに食事連れてってくれるとか、とぬか喜びしたのもつかの間。
「サンドロ・ミランドラのレセプションだ。ミランドラのスーツ、用意しとけよ」
「はい……?? ミランドラのスーツって、んなもん、俺、持ってるわけ……」
「明後日までに調達しておけ」
 軽く言ってくださる。
「って、ミランドラのスーツだ? 俺の一か月分で買えるのかよ……」
 ブツクサ口にする良太の目の前に、工藤はカードを置いた。
「とにかく、似合うヤツを選べ。それ以外何も考えるな」

 


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