月の光が静かにそそぐ17

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「古谷さん!」
 良太がその姿を認めて驚いたと同時に、いつの間にか隣に戻ってきた沢村がその人を呼んだ。
「おう、沢村、久しぶりやな。調子あがってきたらしいな」
 親しげな関西弁で工藤と一緒にやってきた古谷は沢村に声をかけた。
「ええ、まあ。ガンガンいきますよ、今年も」
「頼もしいな」
 端正とは言わないが、眼鏡をかけた知的な容貌は、年を経るごとに渋みを増してカッコよくなった、と良太は思う。
 チームの成績不振の責任を取って、「ホワイトベアズ」の監督を辞任した古谷は、頭脳派のキャッチャーとして何度も首位打者となり、日本プロ野球界では捕手として彼の右に出るものはいないといわれた男だ。
 若くして監督に就任したが、プロ野球選手会長を長年務め、次々と改革を行ってきたアグレッシブで統率力のある手腕に、選手ならずとも、今度は若者たちから上司にしたいナンバーワンに挙げられている。
「うちの広瀬です」
 工藤が古谷に良太を紹介すると、古谷はああ、と頷いた。
「ひょっとして『パワスポ』の? 何度か事務所に連絡くれてたみたいで、すみませんね、ここのところ忙しくて、なかなかお返事できへんかって」
「いえ、とんでもない! お会いできただけで光栄です!」
 本物の古谷を前に、良太は舞い上がってしまった。
 昨年末、大和屋のイベントプロジェクトの件で出演依頼をしたものの、所属事務所には断られたため、まだ古谷に直接合ったことはなかったのだが、MLBで活躍したパイオニア野茂同様、古谷は良太にとってはやはりヒーローなのだ。

 


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