月の光が静かにそそぐ23

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「そういう問題じゃ……」
「車置いたら、メシ、行くか」
 乃木坂に近づくと、ハンドルを切りながら工藤は言った。
「あ、はい!」
 良太は自分がもし犬だったら、めちゃくちゃ喜んで尻尾を振っているだろう姿を思い浮かべた。
 工藤が車を会社の駐車場に滑り込ませると、車を降りた良太は工藤に言った。
「俺、ちょっと着替えてきていいですか? こんなの着てると何か食った気にならないし」
「『夕顔』だ。先に行ってるぞ」
「はい。ついでにちびたちにご飯やってから行きますぅ」
 良太はエレベーターで部屋に上がり、慣れないスーツをジーンズとジャケットに着替え、ナータンとチビにご飯をやる。
 お待ちかねの猫たちがご飯に夢中になっているうちに、良太はスニーカーを引っ掛けてドアを開けた。
 工藤と食事をするのは随分久しぶりな気がして、ついつい鼻歌まで出てきそうだ。
 馴染みの小料理屋の暖簾をくぐると、カウンターの工藤はもう銚子を傾けていた。
 アワビやタイの刺身のほかにフキやサトイモの煮物やきんぴらなど、いつものメニューが並ぶ。
「でも、古谷さんて、カッコいいですよね~、ミランドラのスーツなんかもビシッと着こなしちゃって、沢村のやつも同業者にはいつもドライなくせに、古谷さんに対してだけは結構熱いんですよ」
 酒が進むとついついまた古谷のことが良太の口をついて出る。
「監督っていってもふんぞり返ったみたいな監督監督してなかったし、若いんですよね、常にアグレッシブで」
 またぞろ、古谷の話になり、何となく面白くない工藤は相槌も打たずに、酒を口に運ぶ。
 あれ、工藤と同年代かも……
 お猪口を持ち上げたところで、ようやく良太は思い当たる。
 まあ、工藤がブランドもんなんか似合ってるなんてのは、今に始まったことじゃないし。
 沢山のモデルやタレントがいたが、このダークグレイのスーツは工藤が一番似合って見えたとか。

 


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