月の光が静かにそそぐ4

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 良太にしてもそうだ。
 KBCで六月放映予定のドラマ『花の終わり』のロケに二月の終わりからかかりきりで、北海道や東北方面にしげしげと足を運んでいるのだが、未だに何かにつけて悶着を起こす監督と脚本家の間で四苦八苦だ。
 何しろ、スポンサー側が山之辺芽久というモデルあがりの女優を用意したおかげで、それこそ昔は写真雑誌の常連だった工藤がかつて芽久にスキャンダルに巻き込まれた云々をつい先月、スポンサーサイド主催で行われたドラマのプロモーションイベントの際に取り沙汰された。
 制作サイドが宣伝効果をあげるためにわざと設定したとも言える。
 関わりあいたくないという思惑もありありで丸投げされ、こちらはサブプロデューサーとはなっているものの、良太は工藤に対してブーブー文句を言っているわけだ。
 その上、先日の小樽ロケは良太に任せていた工藤だが、ちょうど同じ時に、キー局であるMBC時代からタッグを組んでドラマ制作にあたってきた大御所脚本家の坂口陽介に札幌まで呼び出され、在京キー局のひとつでMBCとはゴールデンタイムのドラマ視聴率を争っているNBCの創設六十周年記念番組の打ち合わせに出向いたばかりだ。
 必然的にスケジュールの見直しは工藤のみならず良太にまで及ぶこととなり、つまらない雑誌記事に踊らされている暇はないのである。
「おはようございます、工藤さん。夕べギリシアから戻られたんですか?」
 テーブルを片付けながら鈴木さんが声をかける。
「ああ、これどうぞ」
 渡された紙袋から、ギリシア土産のチョコレートを取り出して、「まあ、おいしそう、ありがとうございます。あとでお茶の時間に早速開けますね」と鈴木さんは上機嫌だ。
「あ、おはようございます」
 工藤の顔を見ると、良太は一瞬戸惑いを隠せない。
 ちぇ、よりによってこんなときに限って。

 


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