小樽ロケのあと、札幌で会って以来、それぞれの仕事で動いていて、なかなかまともに言葉も交わせない日々が続いていたのだが、工藤は昨夜ロケ先のギリシアから戻ったばかりだ。
無愛想な表情は今に始まったことではないが、工藤はオフィスの奥にあるデスクにコートを放り、その場で電話をかけ始めた。
あんな写真雑誌の一件さえなければいろいろと話したいことがあったのに、とまだ整理がつかない頭で、良太はいつものごとく電話の相手を怒鳴りつけている工藤の横顔をちらと見やる。
MBC時代は鬼の工藤と異名を取り、つまらない演技でもしようものならどんな人気俳優であっても即引き摺り下ろすという、情け容赦のない、だが当たらないという言葉とは無縁とまで言われた敏腕プロデューサー工藤高広。
アメリカ人を父に持ち、欧米人並みの体躯と一見してハリウッドスターかという端正なマスクに近年は渋みも加わり、その辺の俳優よりもずっと俳優にしておきたいところだが、ダーティな出自よりもむしろ歯に衣着せぬ物言いで建前も何もないような男に、まず演技などできるはずもない。
コーヒーを入れた鈴木さんが工藤と良太のデスクにもカップを置いた。
「あ、ども」
鈴木さんはにっこり笑って、良太の方をポンと叩く。
そんな時はこの会社に入ってよかったと思う瞬間だ。
みんな、何かしら人より厄介な人生を抱えて生きてきたせいなのか、この会社の面々に今までもどれだけか助けられたか知れない。
いや、抱えてなくてもか。
ふと、ドラマの撮影前にわざわざアスカがオフィスに立ち寄ったのは、別に良太をからかおうというわけでもなく、そんなことくらいでおたおたしそうな良太にアスカなりに活を入れるためもあったのではと思う。
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