「型にはまったことは好きじゃないけど、その頃には、本宮さんのご家族と一緒にご飯食べましょうっておっしゃって」
またお正月にこっちに来た時に話しましょ、と言って母の電話は切れた。
おめでたい話に、両親は大喜びのようだ。
いずれにせよ亜弓も前に進む覚悟を決めたのだ。
良太としても前に進みたいと思うし向上したいと思う。
変わって行くことを恐れているのではないが、それによってこれまで当然のようにあった何かが壊れたりしたら、嫌だな。
頭の隅にある漠然とした不安。
「四月は動きが取れないが、五月に入ったらどこかで何日か取れるだろう。俺が行けるとしたら、中旬あたりか」
そう言った工藤を良太は振り返って、「え」と言ったものの言葉が続かない。
え、来れるのか? 工藤、え……
てっきり日本に戻るまで工藤には会えないと思いこんでいた良太は、心の奥でほっとしていた。
なんだ、そうなんだ。
「わかりました。ヤギさんたちとすれ違いってこともありですよね」
「そうだな。その時になってみないとわからないが」
あ、でも工藤のことだから、何か仕事が入ってドタキャンもありだし、ぬか喜びはしないでおこう。
良太がそう自分に言い聞かせながらも地に落ちていたテンションが少しばかり上がってラム酒を飲んでいるうち、工藤はネットプライム日本支社CEOのアル・ロビンスのことで波多野から入った情報を思い出して、眉間に皺を寄せた。
「プライベートなことですが、あの会社はオープンなので大抵知られているようで、ロビンスはパンセクシュアルで、付き合う相手はよく変わるそうです」
ロビンスがパンセクだかバイセクだかなどどうでもいい、良太に触手を伸ばそうなどと思わなければな。
自分の手の届かないところでと思うと、工藤は今からやきもきしてしまう。
こいつは相手を信用しすぎるんだ。
今まで良太が何度か襲われた経緯を思い出すと、また工藤の皺が増える。
だからこそ広く慕われているってことは悪いことではないが、日本ではなくニューヨークとなると、またわけが違う。
良太にジムとか行かせるより、護身術でも身につけさせた方がいいのではないかとさえ思ったりもする。
「今のところあの会社でマズい噂は聞きませんが、最近、急速に成績を伸ばしてきた若い会社のパーティに警察の手入れが入り、取引先に日本の商社も入っていて赴任していた三十代の社員も捕まりましてね」
続いての波多野の話もあまり聞きたくもない情報だった。
「接待に使っていた女の子の中に十五歳以下が混じってたみたいで、しかも海外赴任で舞い上がっていた社員はレイプドラッグを酒に入れられて、まあ爆睡していただけのようで、なんとかこっちの会社側が助け出したらしいですが、取引先に女の子をあてがってうまく操るとか、ありそうな話ですからね、気を付けるに越したことはありません」
この手の問題は護身術でもどうにもならないだろう話だ。
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