月澄む空に15

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 大阪から名古屋のフジタ自動車に寄って工藤が戻ってきたのは、翌日の夕方近くのことだった。
「何かあったか?」
 オフィスに入ってくるなり、工藤は良太に聞いた。
 良太も森村と戻ってきて間もなくで、ちょうど鈴木さんが遅めのおやつを用意してくれたので三人でお茶を飲んでいた。
「いえ、今日の撮影は順調に終わりました」
 齧りかけのカステラを慌てて飲み込んでから、良太は答えた。
「コーヒーになさいます?」
 頷いただけで自分のデスクに向かう工藤に、鈴木さんが声をかけた。
「お願いします」
 工藤、今日はこれから何もないはずだけど、食事、行けるかな。
 良太が暢気そうにそんなことを考えていた時、またオフィスのドアが開いた。
 振り返ると、男が二人入ってきた。
 頭が後退した年配と若めの男で、二人ともスーツだが共通するのは目つきが優しくなさそうだということか。
 あまりにそのものという雰囲気に立ち上がった良太は眉を顰めた。
「どちら様でしょうか?」
「失礼、武蔵野署の者です」
 案の定、二人は警察手帳を手にかざした。
 良太はまた工藤に尋問でもする気かと身構えた。
「実は、吉祥寺のある店でちょっとした事件がありまして、そのことでお尋ねしたいことがありまして」
 何となく最初から容疑者扱いしてきた刑事らとはようすが違う。
「どうぞこちらへ」
 森村が自分のお茶を持って立ち上がると、鈴木さんがカップや皿を片付けて二人をソファへ促した。
「社長の工藤です」
 工藤も刑事と聞いてデスクからやってきて二人の向かいに座った。
 年配の男は、田島、若手は伊藤と名乗った。
 良太は工藤の横に立って二人を見下ろした。
「実は昨晩、『マユミ』というスナックに、青山プロダクションのプロデューサーと名乗る男が来て、ドラマのロケハンをしているがぜひ店を使わせてもらいたいと言い、閉店時間まで結構飲み食いしたあげく、金を支払わずに店の女の子と一緒に帰ったみたいなんですが」
 そこまで聞いて良太は思わず、バカな、と口を挟みそうになった。
「実は女の子が無理やりホテルに連れていかれそうになって、男をひっぱたいて逃げたってことで、今日になってママと一緒に署の方に来て被害届を出したんです」
 田島は続けて言った。
「うちではプロデューサーは私とこちらの広瀬の二人だけですが」
 名刺を渡しながら工藤は冷ややかに言った。
 良太もすかさず名刺を渡した。
 すると二人は工藤と良太を見やり、互いの顔を見合わせた。
「横川と名乗ったそうですが」
 伊藤がタブレットを取り出して男の名刺の画像を見せた。
「似ていますが、ロゴがありませんし、うちには横川という人間はおりません」
 良太がきっぱりと言った。
「四十代くらいで中肉中背の男性だということですが」
 伊藤が言うのに、「四十代って、社長以外では谷川くらいしかいませんし、谷川は今、北海道ですから」と良太は答えた。
 するとまた二人は顔を見合わせた。
 ここにいる工藤は大柄でどう見ても中肉中背とは言えない。
「これがスナックのママらに聞いて作成した似顔絵なんですが」
 伊藤がまた別の画像をタブレットで表示した。
「メガネに口髭、髪は七三で、紺の縦縞のスーツを着ていたそうですが」
 明らかにどこにでもいそうなおっさんの絵である。

 


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