月澄む空に151

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「ああ、はい、えっと、カリカリもレトルトも冷蔵庫の上のかごに入れておくので、まあこのくらいずつ」
 この人ほんとに世話してくれるつもりなのか。
 良太はまだ半信半疑で工藤を見た。
 良太が猫たち用のテーブルの上に器に盛ったカリカリを置くと、猫たちははぐはぐと食べ始めた。
「器は食洗機に入れておけばいいので。水は自動のをセットしておくか、直にボールに入れてもかまわないので」
 良太は簡単に説明をした。
「ふん、まあ、メモって冷蔵庫にでも張っておけ」
「はい、わかりました」
 返事をしながら良太はレトルトの封を切って、猫たちの皿に添えてやる。
「風呂から上がったらちょっと来い」
 工藤は良太の忙しないようすを眺めながらそう言うと自分の部屋に戻っていった。
 そうだった、奈々にオファーが来ている車のCMで翌々日は奈々や谷川、工藤と一緒に良太もフジタ自動車の東京本社に出向くことになっていた。
 その話は先日急に決まったらしいが、今回、良太が担当することになっていて、広報部長らとは初めての顔合わせで、しかも何故か東京本社社長で藤田の息子晴久もメンツに入っているらしい。
 なんでそんなお偉いさんまで出てくるんだ?
 良太は風呂に浸かりながら、眉を顰めた。
 奈々がイメージキャラクターとして出演するのは、ララという新発売の軽自動車だ。
 ネーミングからしても、いかにも若い女の子向けで、カラーもパールホワイト、ピンクベージュ、クリームイエローと可愛いを絵にかいたような雰囲気の車でありながら、高い燃費性能で低価格、センタータンクレイアウトで室内空間が広い上に、衝突回避支援システムなど、事故回避や運転支援の装備もしっかり備わっている。
 車の画像を見た途端、可愛い、を連発していた奈々は、今年の春、念願の運転免許を取ったのだが、まだ自分で車を運転したことがないし、車もまだ持っていない。
 両親に、ララを買っていいかどうか相談すると言っていた。
 まだまだ奈々は親がかりだが、大学もしっかり卒業したし、やると決めたらやり遂げる強さも持ち合わせている。
「まあ、奈々ちゃんなら、仕事的に心配はないけど、CMの内容だよな。代理店英報堂だっけ」
 前に、奈々が出演したチョコレートのCMで、クリエイターの質が低いと工藤が文句をつけてクリエイターを代えさせたことがあった。
 良太も最初の映像をたまたま見たが、質もだが品位が落ちる気がして、これは良太でも×だと思ったことがある。
 佐々木さんはやっぱ、すごいんだ、と良太もあらためて思ったものだ。
 あ、そうだ、明日は工藤は朝から紺野ドラマで房総半島でロケのはずじゃん。
 思い出した良太は慌てて風呂から上がり、ざっと髪にドライヤーを当てると、スエットの上下を着こんで、そそくさとドアへ向かった。

 


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