「心当たりはありませんか? すみませんがそちらの方も見てください」
伊藤に言われて、森村と鈴木さんもやってきた。
「どこかで見たような感じの方ですけど、うちにはこういう方おりませんわ」
鈴木さんがおっとりと首を傾げた。
「俺もわかりません。もっと何か特徴ないんですか?」
森村が尋ねた。
「いや、何ていうんですか、黄色いペーズリーのネクタイをしていたらしく」
確かに絵にも描いてある。
「紺の縦縞のスーツに黄色いネクタイ?」
まるでドラマでよくやる何とか組の下っ端じゃん、ついつい笑いそうになって良太は危うく堪えた。
「谷川さんという方は、北海道に?」
尚も疑ってくる田島に、今度は良太がタブレットを持ってくると、谷川の写真を二人に見せた。
「え、これって、谷川警部補?」
逆に驚いたのは田島の方だった。
「谷川さんをご存じなんですか?」
聞き返した良太に、「いや、柔道の大会で顔を合わせてまして、辞められたことは聞いていたんですが、全日本で優勝とかもされてますし」と田島が少し懐かし気に言った。
「家庭の事情で警察を辞められてから、うちにこられて、非常に親切で頼りになる方です」
良太はあらぬ疑いをかけられそうになった谷川を弁護するように言った。
入社当時は工藤に反感を持っていた谷川だが、一緒に仕事をするうち、打ち解けて頼もしい人材になった。
家庭の事情というのも犯罪絡みなどでもなく、ただ娘がとある組員と結婚したため、谷川は辞職したが、今では娘婿も足を洗って千葉の地元で漁師をしている。
「そうですか」
田島は頷き、「お宅の会社の社員を騙った詐欺かも知れませんし、似顔絵に心あたりがあればお知らせください。念のため、関係ある業者さんの会社名を教えてもらえますか?」と言った。
「わかりました。似顔絵と名刺の画像、私の名刺のアドレスに送ってください」
良太は伊藤に言うと、自分のデスクに戻る。
業者名を教えるのも余り面白くはなかったが、潔白を証明するためには仕方がない。
良太がリストを渡すと、二人の刑事は帰っていったが、しばしオフィス内に沈黙が流れた。
「本物の刑事って、大変だね」
沈黙を破ったのは森村だ。
「ほんとですわ。わざわざ吉祥寺からここまで捜査に来て。あの方たち電車でいらしたみたいだし」
「スーツや靴もくたびれるわけだね」
鈴木さんと森村の会話につい良太は笑ってしまった。
「じゃ、私はそろそろ失礼いたします」
帰り支度を済ませた鈴木さんが言った。
いつの間にか時刻は六時を過ぎていた。
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