「何だか至れり尽くせりじゃないですか。いくらでも行きますよ! 美術館だろうが博物館だろうが」
良太は拳を固めてきっぱり言った。
「まあ、良太はよしとして、佐々木さんやな、いくらあの怖そなおかんが大丈夫や言うたとしても、実際はひとりやと何もでけんおばはんやろ? 長丁場になるわけやし」
「そうですよね。家政婦の仲田さん、通いだし、休みの日曜日の食事は、用意してレンチンするだけにしてくれてるみたいですけどね」
「ふーん。小夜ねえが、余計な御世話かも知れんけど、洋子さんを仲田さんがおらん時、手伝いに行ってもらおうとか言うてて」
それを聞くと良太はうーんと小首を傾げた。
「それは佐々木さんも助かると思うけど、直ちゃんに前、聞いたとこによると、佐々木さんのお母さんて、綾小路さんには借りは作りたくないみたいな雰囲気だって話ですよ?」
「ああ、あのおばはん、生まれが京都の由緒ある家やったらしうて、綾小路さんとこのこと意識してはるらしいわ。俺も公一さんから伝え聞いただけやけどな」
「やっぱり。直ちゃんによると、佐々木さんはお母さんのこと、つまんない意地張ってるって言ってたって」
良太は直子の話を思い出しながら言った。
「せやからな、東洋商事の仕事のためにニューヨークに行ってもらうんやからて、紫紀さんが直接、頭下げに行く言うてたわ」
「なるほど、それだったら、お母さんも納得して、洋子さんに手伝い頼む気になるかも知れませんね」
良太はうんうんと頷いた。
「もともと、洋子さんもお茶の弟子やから、筋さえ通せば、何とかなるやろ」
「そうですね」
「良太もほんまに、苦労性やな。佐々木さんと沢村のことにまで振り回されて」
千雪は苦笑する。
「はあ。でも沢村にはMLBでやれるだけ頑張ってほしいし、佐々木さんには実際仕事絡みで頑張ってもらわないとなんで」
「やっぱ工藤魂が既に住み着いとるな、良太ちゃんには」
「だから、それ、やめてくださいってば」
「二人がうまくいったら、仕事もうまくいくて算段しとるやないか、無意識のうちに」
「それはそれ、これはこれですってば!」
良太はむきになる。
「せや、インタビューの他に、制作記念パーティに出ろとか、工藤さんに無理やり言われたで」
「ああ、『検事六条渉』のドラマ、局がえらく力入れてるみたいで。何しろ、テレビ離れが加速してますからね。上の方が躍起になってるらしくて」
「自然な成り行きちゃうの? 配信会社とかがドラマ制作とかやるようになったし、テレビ局がふんぞり返っとる場合やないてことやろ?」
「世の中の変遷に逆らうより、いろんな状況に対応していくしかないですもんね」
「ようわかっとるやないか」
そう言いながらも千雪は「せえけど、俺は電子書籍とかはあかんわ。紙本がええ」と言う。
「千雪さんの本も、とっくに電子書籍になってるじゃないですか」
「まあ、読む方が決めるだけやけどな」
千雪とそんなことを話しながら、変わらぬものはないのだと、良太はまた思う。
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