月澄む空に162

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 通された会議室には広報部長田村と担当の岡崎、代理店英報堂担当者小野寺とクリエイター浅井由美、そしてフジタ自動車東京支社長藤田晴久の顔があった。
 既に顔を合わせていた岡崎が工藤や良太、そして南澤奈々と谷川に、それぞれを紹介し、ミーティングは淡々と進んでいった。
 会長のフジタなら、時々茶々を入れてまぜっかえしたりするのだが、晴久は何のためにこの場にいるのかと思うほど、英報堂の小野寺がこのプロジェクトの趣旨から商品のコンセプトやマーケティング戦略について述べると、パネルに映し出された動画や画像で浅井がCMについて具体的な内容を説明している間、いるのかいないのかわからないくらい静かにミーティングを見守っていた。
 ちょっと目を動かしたのは、浅井の説明に良太が奈々の持ち味をどう映像に取り入れていくかについて質問した時くらいだろうか。
「セーラー服なんか着せたければその辺の女子高生でも連れてきた方がいいんじゃないのか?」
工藤が浅井の提示した奈々のJK風コスチュームに思い切りダメ出しをしたため、再度一週間後のミーティングとなった。
 工藤の言い草に渋い表情の浅井だったが、工藤の前に良太も、妙な衣装はコンセプトにどう関係しているのかと問い正したところ、ポップなキュートなイメージでというキーワードを繰り返しているだけで、まとまらない説明に終始していた。
 ミーティングが終わると、ようやく晴久が工藤に声をかけた。
「今日はお忙しいところありがとうございました。そうそう、広瀬さん、いよいよゴルフを始めるそうですね」
 いきなり自分の名前を呼ばれて良太は振り返った。
「あ、いや、まだ道具を揃えたくらいの話ですので」
「誰にも最初はありますよ。今度ぜひご一緒しましょう」
「はい、ありがとうございます。ぜひお願いします」
 これ以外の言葉はこの場では見つからなかった。
「南澤さん、谷川さん、よろしくお願いします」
 笑みを浮かべて、一人別のエレベーターへと歩いていく晴久を青山プロの面々は見送った。
「よくわからない方ですよね、社長」
 広報部長や英報堂は既にエレベーターで降りていたので、箱に乗ったのは四人だけだった。
「まあ、ゴルフくらい付き合ってやれ」
 工藤は鼻で笑う。
「あれでお前を気にいってるみたいだぞ」
「はああ?」
 とてもそんな風には思えない良太は、工藤に胡乱な目を向けた。
「にしたって、あのクリエイターさん、奈々ちゃんのこと全く無視した作り方ですよね」
 思い出して良太が眉を顰める。
「来週、ろくなものができなかったら、他に回してもらう」
 はっきり口にする工藤と、そのあたりは良太も意見が一致している。

 


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