月澄む空に22

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 三人とも大事を取って一晩入院してもらうことにして、良太はスタジオに戻った。
 撮影が始まる寸前に森村とスタジオを出ると、良太は廊下の隅に移動して、病院で治療中の三人についてかいつまんで話した。
「つまり、誰かが三人に下剤を飲ませたってことですか。三人だけってのが妙ですよね」
「最初はどら焼きに何か問題があったのかと思ったけど、おそらく誰かが飲み物に下剤を混ぜたってことだ。三人とも下剤なんか飲んだ覚えはないって言ってるし」
 やっぱり、と森村が真顔で頷いた。
「スタッフさん二人病院だし、それを利用させてもらって猫の手に助っ人を頼むことにする」
「明日もここですしね」
「今夜撮影が終わったら、オフィスに『猫の手』に来てもらおう」
「作戦会議ですね!」
 幸か不幸か、工藤は今頃空の上だ。
「いいか、俺の留守中だと思って、お前はホイホイ動くんじゃないぞ。わかったな!」
 羽田で車を降りる時も、工藤は念を押した。
 極力、司令塔に徹するけどさ。
 良太は振り返った時の鬼のような工藤の顔を思い浮かべて眉を顰めた。
 二人がコソコソと話していると、スタジオのドアが開いた。
「あ、広瀬さん」
 出てきたのは天野だった。
「すみません、ちょっとお話があるんですが」
 すると森村は、「じゃ、俺、戻ります」と天野と入れ替わるようにスタジオに消えた。
「どうしたんですか? 控室、行きましょうか?」
「いや、ここでいいんですが」
 天野はそう言うと、辺りを見回してからまた良太に向き直った。
「病院に運ばれた三池さんとかスタッフさんとか、大丈夫でしたか?」
「ああ、ええ。感染症の疑いはないそうですが」
 良太は少し言葉を濁す。
「何かあるんですか?」
「いえ、何も。何でしょう、お話って」
 良太の真剣な顔に天野は苦笑した。
「同年配だし、タメ口でいいですよ」
「いや、仕事ですし、天野さんこそ」
「ま、いいや。ちょっと気になることがあって」
 一旦天野は言葉を切った。
「気になること?」
「俺、変なものを見たんです」
「変なものとは?」
 良太は表情を強張らせた。
「実は……」
 天野は顔を近づけて声を落とした。
「ちょっとここ数日生活が不安定で、実はさっきトイレの個室に籠ってたんです」
「え、天野さんも?」
「いや、俺はごく普通の大です」
 真面目な顔でそう言う天野を見て、良太はついふき出した。
「ちょと、マジなんで」
「すみません、それで?」
「いや、それに三人がお腹を壊したって時より二時間くらい前だし。俺が踏ん張ってる時誰かがトイレに入ってきてまた出て行った気配がして、ものの五分くらいかな。とりあえずすっきりして出てきて手を洗ってトイレを出たんです」
「はあ」
 詳細な説明に良太はとりあえず合いの手を入れる。
 
 


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