「そこは一応、なんとなーく第二弾の話を宇都宮にも匂わせてあるし、ほら、何といっても宇都宮のお気にの良太ちゃんがいるだろうが」
「良太はここんとこ俺より忙しいんで」
坂口の軽口に、それこそ宇都宮が良太を気に入っていることが何となく面白くない工藤にとっては、ついつい声も荒げようというものだ。
「ああ? だめだろ、可愛い部下をこき使っちゃ。ま、とにかくそういうことだからよろしく」
「何がよろしくだ!」
切れた携帯に向かって工藤は喚いた。
なあなあで自分の意思を通そうという坂口の魂胆は丸見えだが、これまで幾度となく組んでやってきた経験上、仕事的には坂口との相性は悪くないのもわかっていた。
メインスポンサーである東洋商事社長綾小路紫紀もあのドラマは結構気に入っているようだし、宇都宮のスケジュールが何とかなれば、工藤も第二弾もありかとは思う。
「仕方ないな」
午後も三時から代理店との打ち合わせが入っているだけだったが、だめもとで紫紀にアポを入れてみると、ランチに誘われた。
それまで空いた時間にジムで汗を流すかと、工藤は高輪へと向かった。
良太もたまに利用しているらしく、へなへなだった身体に少しは筋肉らしきものがついてきたようだ。
「まあ、息抜きにもなるだろう」
自分のような仕事人間になってほしいわけではない。
そんなところまでマネする必要はないと工藤も言うのだが、直球型で生真面目なところのある良太は、無理をしてすぐ身体が悲鳴を上げる。
一人で車で遠出というのもあまり勧めたくはなかったが、他の仕事との絡みもあって今回良太は一人で出かけて行ったのだ。
俺の健康のことより先に自分の身体を心配しろ。
今頃常磐自動車道あたりを走っているだろう良太の懸命にハンドルを握る顔を思い浮かべて工藤は苦笑した。
紫紀が工藤をランチに誘ったのは、以前も訪れたことのある西永福の『泉水』だった。
ここは綾小路家専属の料亭のような屋敷で、看板があるわけでもなく外からはここが料亭だとはわからないだろう。
タクシーを降りると、ドアが開いて工藤は中へ招かれた。
「ここの料理を気に入ってくださったようなので。いや、私もここにくると何となく一息つけるんですよ」
テーブルに着くと、紫紀はにこやかに言った。
大企業のトップともなれば何かと気が休まらないことも多いのだろうと工藤は思いやる。
銀杏や松茸を使った先附に始まり、子持鮎の煮物、松茸の土瓶蒸しなど秋の味覚をふんだんに使い、和牛ランプ肉のステーキなど、くどくない舌ざわりの料理が目でも楽しませてくれる。
「第二弾ですか? それは大いに楽しみです」
思った通り、紫紀は『コリドー通りで』の続編ドラマに対して歓迎のようすだった。
「ただ、第二弾というのは往々にして第一弾を超えることは難しいみたいですね」
「確かに。そこは考えていく必要があります」
「でも、個人的にはぜひやっていただきたいですね。宇都宮さんのスケジュールは大丈夫なんですか?」
「そうですね、まあ、交渉次第というところでしょうか」
工藤は当たり障りのない言葉だが確固たる自信をもって答えた。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます