「……でさ、これ誰が後片づけすんだよ」
ふと嫌な予感がした良太が、一人呟く。
パーティ用のグラスや皿も、リラクゼーションルームから持ち出したものだ。
「そりゃもちろん、準備しなかったヤツ、な」
ぽん、と俊一が良太の肩を叩く。
「んだとぉ、紙皿とか紙コップとかにすればいいじゃん!」
「だってぇ、花に失礼じゃない」
しれっとアスカがのたまう。
はあ、と良太は一つため息をつく。
午前中は晴れていて温かかったが、徐々に雲が広がり、夜になるとぐんと冷えてきた。
それを見越してか、ちゃんと野外用のストーブまで用意されている。
「やってるやってる!」
騒ぎながらやってきたのはマネージャーの真中を従えた青山プロダクション所属俳優小笠原だ。
「ドンペリだぜ~!」
「おお、いいじゃんいいじゃん」
小笠原からドンペリのボトルを受け取ると、俊一が早速コルクをポンと抜く。
「工藤さん、無理やり連れてこられたって顔してますよ」
秋山が腕組みをして突っ立っている工藤に言った。
「俺は今夜はゆっくり部屋で過ごす予定だったんだ」
「いいじゃないですか。花はきれいだし」
工藤はこぼれそうに咲き誇った花をあらためて見上げる。
「花は……きれいだが……」
この季節は好きじゃない。
「え?」
「いや……」
僅かな感傷を散らしたのは、良太の携帯から流れる関西タイガースの応援歌だ。
「え、何だって? ホームラン? 見てないよ、仕事だったし」
電話をしてきたのは関西タイガースの四番打者沢村である。
ホームラン三号を打ったから、これから花見をしようというのだ。
「花見? 今夜はちょっと無理だよ……」
「明日の雨で花なんか散るぞ、今夜じゃないと」
「いや、それが、今、うちの会社の花見でさ…」
と、いきなり隣から手がのびて、良太の携帯をアスカが取り上げた。
「こっちにいらっしゃいよ、お花見ならここでやってるから」
「ちょ、アスカさん!」
携帯を取り戻そうとする良太の手を押し戻して、「ああ、会社の裏庭、無礼講だからどうぞ」と勝手に切ってしまう。
「アスカさ~ん、勝手にもう、酔ってるな~」
「いいじゃない、お友達でしょ?」
「いや、でもなーーー」
ちらっと工藤を見る。
「他にもまだくるから、平気よ、一人や二人増えたって」
「そういう問題じゃ……」
沢村とのことですったもんだあったのは昨年暮れのことだが、良太としてはあまり工藤と沢村に面と向って会ってほしくないところなのだ。
「どうしたんだ?」
工藤が声をかける。
「え、いや、沢村が……花見しようって……」
仕方なく正直に話す。
「フン、お友達なら呼べばいいだろう」
その言い方に、良太は少々カチンとくる。
「もう、勝手に呼んじゃいましたよ、アスカさんが」
「何、沢村って関西タイガースの? 今日はジャイアンツ戦でホームラン打ったな」
秋山が口を挟む。
「ええ、三号打ったら花見しようって、もううるさくって」
「そりゃ、祝杯あげないと」
「秋山さん……面白がってるし」
良太は恨みがましい目で秋山を見やる。
back next top Novels