ACT 1
冷たい木枯らしに首をすぼめながら、コンビニで弁当を買ってきた良太は、そそくさとオフィスに飛び込んだ。
寒いからといって師走に風邪なんか引いている暇はなかった。
この週末は制作会社やスタッフなど関連業者を招いて、青山プロダクション主催の忘年会が開かれることになっていた。
あっという間に週末はやって来て、良太は朝から準備に追われていた。
乃木坂に小さいながらも自社ビルを構える青山プロダクション。
キー局であるMBC時代から敏腕プロデューサーとして名を馳せた工藤高広を社長とし、テレビ番組、映画の制作、広告企画宣伝、タレントの育成及びそのマネージメントなどなどが、その業務内容である。
忘年会の会場はリラクゼーションルームになっている青山プロダクションビルの五階、料理などはいつも使っているレストランのケータリングサービスを利用したビュッフェ形式だ。
「はあ、一人でもいいんですが、何とかまわしていただけませんか?」
季節柄かパーティスタッフの手配に手間取り、派遣会社に依頼してやっと三人ほど来てもらえることになったが、良太は次々と発生するトラブルの対処に追われていた。
「良太ちゃん、大変!『SAGA』から、明日じゃどうしてもソフトが五個しか用意できないっていうのよ」
今度はビンゴゲームの賞品にするはずだった品物が数が足りないと業者から連絡が入った。
「ええ~~!? やっぱダメそうだとか言ってたしな。仕方ないや、何か賞品になりそうなもの買ってこなくちゃ」
「じゃあ、銀行にも行かなくちゃいけないし、私がデパート見てくるわ」
鈴木さんの有難い申し出に良太はほっとする。
「お願いしていいですか? 五千円くらいのもので、五個。もう、鈴木さんのセンスに全てお任せしますから」
たまたま手が空いていたアスカのマネージャー秋山にも手伝ってもらって、とりあえず準備は整った。
それだけで良太の仕事が終わったのではない。
パーティのMCはつい一年前から良太の仕事になっている。
時間ギリギリに会場に足を踏み入れると、番組制作プロダクションから編集、メイクスタッフ、CM制作会社、音楽プロデューサー、それにカメラマンやエンジニア、多種多様の業界関係者が五、六十人ほど集まっていた。
広告代理店プラグインの藤堂と西口も顔を見せていたので、良太は早速挨拶に出向く。
「ありがとうございます、浩輔さんもお忙しいのに」
プラグインは代表取締役の河崎を含めて社員四人、業界では駆け出しだが、河崎達也と藤堂義行はもともと大手広告代理店英報堂のトップAEとして様々な業績を打ち立ててきたたエリートで、最近独立して会社を興したのだ。
デザイナーでもある西口浩輔も以前は英報堂の社員で、河崎の部下だったと良太も聞いている。
「良太ちゃんに誘われちゃ、はせ参じないわけには行かないよ」
いつものように茶目っ気たっぷりの台詞で、藤堂が笑う。
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