「だって、あんなカッコいい人初めて会ったわ!」
夢見る少女のような表情でかおりは両手を胸の前で組んだ。
「ダメ! 絶対、工藤は!」
つい、そんな言葉が勝手に良太の口から飛び出した。
「え、紹介くらいいいじゃない? あ、私、ここで雇ってもらおうかな、今派遣会社だから、いつでもOKよ」
思い切り否定する良太に、かおりがまた思いつきを口にする。
「ダメダメ! うちはそんな余裕ないし………」
冗談じゃない、ただでさえ、工藤の周りにはいい女がいっぱいいるってのに!
その時、良太の電話がけたたましく鳴り響いた。
「はいっ! 青山プロダクション!」
ひょっとしたら工藤かもしれない、と良太は飛びついた。
「あ、良太? あさってって工藤さんのお供?」
電話の向こうから聞こえてきたのは工藤の怒鳴り声ではなかった。
「何だ、アスカさんか。あさってはうん、MBCでナマ番組がひとつと、俺、打ち合わせ」
「ああ、室井アナのニュースドキュメントか。打ち合わせの後は? ヒマ?」
「え、俺? 工藤さん、忘年会に送っていけばお役ごめんだけど、そのあと藤堂さんに誘われてて」
「良太ってば、今度は藤堂さんに言い寄られてるわけ!?」
「何ゆってんですか。河崎さんちでクリスマスパーティだって。プラグインの」
とんでもない誤解だと、良太は慌てて説明する。
「河崎さんとこで? それあたしも行く!」
「え? スケジュール、いいの?」
アスカの唐突な宣言に、良太は聞き返した。
「ずっとあいてるのよ。だって今年はさ、テロ事件が大々的に報道されたお蔭でうちの親も海外なんか行くなって言うし。いつもならパリに行ってる頃よ」
「そっか」
「じゃ、迎えに来て。友達も誘っとく」
「わかった」
「なーんだ、中川アスカとやっぱそういう関係? イブにデートするような」
受話器を置くなり、かおりが言った。
「バ、バカ言え、ただの同僚ってだけで。単にスケジュールの確認だよ」
良太は慌てて否定する。
「一般人には知られたくないんでしょ」
覗き込んでいた鏡をバッグにしまうと、かおりは立ち上がった。
「だから違うって。ほんとに」
「夕べなんてあたし、せっかく勝負下着バッチリだったのにさ」
「へ、ショ………!?」
「あたし、帰るわ」
良太が目を白黒させているうちに、かおりは良太のパイプハンガーにかけてあった自分のコートを取ってはおり、バッグを手にしてドアに向かった。
「わ、悪いな、お構いもしないで」
「どういたしまして。口止め料はイタリアンでいいわ。また連絡するね」
ブーツを履きながら、ふふっとかおりはまた笑顔を向ける。
「く、口止め料って、だから別に俺とアスカさんは………」
誤解を解こうとすればするほどしどろもどろになる。
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