「河崎は今日出張が入ってしまって、出席できなくて申し訳ありません」
良太より少し目線が下がる浩輔は、どちらかというとベビーフェイスで、良太はてっきり年下だと思っていたのに、聞いてみると一つ上だというので驚いた。
今日はスーツだがいつもはジーンズにジャケットで、学生でも十分通りそうな雰囲気だ。
「いや、河崎さんて何か怖いし、浩輔さんも今夜は羽を伸ばすといいですよ。どんどん食べて飲んで楽しんでください~」
「あはは、やっぱ怖いっすか~、うちの河崎。そういえば、CM評判いいですよね~、尾崎って俳優じゃ、あの雰囲気でませんでしたよ。良太さん、ドラマにも出てるんでしょ? オンエアされるの楽しみです」
のほほんと笑う浩輔だが、仕事に対しては時折ポロリときついことを軽く口にする。
「あ、いや、楽しみにしなくていいです、ほんと」
会う人会う人に似たようなことを言われ、良太は苦笑するしかない。
カフェラッテのCMで好評を得たプラグインは今年鴻池産業からいくつかの仕事を任され、青山プロダクション所属俳優の中川アスカや南澤奈々を起用した広告プロジェクトも見事成功している。
英報堂時代の河崎と顔馴染みだった工藤が、鴻池に彼を紹介したのだが、CMだけでなく良太がちょこっと出演したというのは、この鴻池産業がメインスポンサーとなっているアスカ主演のドラマだ。
良太がCM等に出演したことのみならず、当時この鴻池と間に勃発したすったもんだが、また工藤の眉間の皴を増やす要因ともなっているのだ。
ようやくスポンサーとの打ち合わせから戻ってきた社長の工藤が、ダークブラウンのスーツで颯爽と現れた。
工藤のワードローブの中心はアルフレッド・ダンヒルだが、いつにも増してそんじょそこいらの社長とは一線を画した風格を纏っている。
それはまあ、良太目線だけではないだろう。
「このたびはお忙しい中、弊社の忘年会にお集まりいただき、ありがとうございます。それでは社長の工藤からひとことご挨拶させていただきたいと思います」
早速良太はマイクの前に立ち、進行を務める。
工藤の短い挨拶が終わり、しばらくすればお決まりのビンゴゲームに入る。
それが終われば、あとは勝手に飲み食いしてもらうだけだ。
南澤奈々は生番組の仕事で今は地方にいるが、仕事を終えたアスカが顔を出し、やがて来年の大河ドラマの主役に決まっている志村嘉人が、時間があいたからとマネージャーの小杉と一緒に現れ、場はかなり盛り上がった。
「ビンゴの方~、いらっしゃいますか~?」
秋山と嘉人に手伝ってもらい、良太はゲームを進めていく。
「おおっ! ビンゴだっ!」
声を上げた主が人を掻き分けて前にやってきた。
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