街路樹は鮮やかに葉を落とし、寒々しい冬の様相に一役かっていた。
世の中は年の終わりに近づいて、不景気ながらもやや活気づいてきたところだ。
忙しなく行き交う車を横目に見ながら、広瀬良太は冷たい向かい風に肩をすくめた。
「あ~あ…」
やけに長いため息は風にかき消される。
手に持っているコンビニの袋はガサゴソと風の摩擦に音を立てている。
すばらしい二枚目とかは言い難いし、すごくイケメンとも少し違うが、そこそこ甘めのチャーミングなマスク、スレンダーな体躯は今どきの若者だ。
だが、その表情からは、すれ違うOLが思わず、まあ、会社のリストラにでもあったのかしら、このご時世だからかわいそうに、と思ってしまうような深刻さすら窺える。
可愛い子なのに、とちょっとつけ加えて。
乃木坂にある七階建ての瀟洒なビルの前で、良太はもう一つ、ふう、とため息をついた。
エントランスに青山プロダクションとある自動扉の中に足を踏み入れると、良太は玄関ロビー横の階段を二階へと上がっていった。
タレントの育成とプロモーション及びテレビ番組、映画の企画制作プロデュースが、青山プロダクションの主な業務内容である。
一応、良太にはこの会社の社長秘書兼プロデューサーという肩書きがある。
実際は運転手も雑用係も兼ねているが。
ちょっと前に、良太が会社を辞める辞めないですったもんだもあったのだが、今彼にのしかかっている大きな問題はまた別物だった。
「良太ちゃん、あった?」
出迎えてくれたのは、会社の経理を任されている中年女性、もとい、アラフィフの鈴木さんだ。
期待に満ちた目で声をかける鈴木さんに、良太はクビを横にふってみせた。
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