夢ばかりなる12

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 昼過ぎからやたら風が強くなった。
 体感温度は確実に二度は下がっているだろう。
 接待などで使う、工藤の馴染みの料亭『雅楽』は神楽坂にあった。
 夕方から席を用意したのは、小林千雪との打ち合わせのためである。
 工藤と千雪の他に良太もというのは、珍しい組み合わせだった。
 良太は最近の工藤の行動からして何やら作為的なものを感じて、かえって千雪とのことまでも勘ぐりたくなるのだが。
 でも、千雪さんとつきあってんの、あの京助だし。
 ただ、工藤はどうだか……
 いささかなりともマイナス思考になる自分を奮い立たせようと、良太は心の中で繰り返す。
 千雪の小説の映画化第四弾は、来年冬の封切りを予定している。
 ここのところドラマはいくつか続いたが、前回映画化されてからしばらく間があった。
 今回は春に発表された最新作『春の夜の』が原作となる。
 この作品の映画化に稀代の名監督野元巌が手を挙げた。
 カンヌやベネチア映画祭でグランプリや賞を得て、一躍日本映画を世界レベルまで押し上げた逸材である。
 出版記念パーティだの、新年会や忘年会だのがあちこちであるらしく、工藤にも招待状がわんさか届くのだが、そういった集まりが嫌いなのは工藤だけでなく、あまり顔を出すことがない千雪だが、MBCテレビ主催の新社屋完成記念パーティには、工藤と一緒に出席した。
 その席で千雪はたまたま招待されていた野元監督と言葉を交わし、古典文学者である千雪の父小林和巳に傾倒していたという話から、いきなり千雪の作品を撮ってみたいと野元が言い出した。
 すかさず来年に予定していると工藤が話を向けたところ、野元が、ではスケジュールを空けるから、と、あれよあれよという間に決まってしまったのである。
「工藤さんに言われたとこ、付箋ついてるのが、ここは撮って欲しい、いうシーンですけど」
 千雪は、かすかに良太の記憶にある学生時代と同じように、京都訛りで淡々と話を進めていく。

 


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