「貴様らっ!」
工藤が男の一人を引き剥がして殴りつけたが、三人がかりで工藤に襲い掛かり、その間に、二人の男が千雪を無理やり車に押し込もうとする。
「このやろ! 千雪さん、放せっ!」
良太は千雪の後ろにいる男に飛びかかるが、逆に突き倒されて転倒した。
「こいつ、ほんとに工藤のイロか?!」
「だろ? 激マブだってからよ、早くしろ!」
ふらつく良太の耳に、そんな声が聞こえる。
どうやら若い半グレ風の連中だ。
その時、風のような勢いで間に飛び込んできた男がいた。
しかも武道、それもかなり攻撃的な技でたちまちのうちに男たちを蹴散らし、叩きのめしていく。
工藤も黙ってはいない、尚も向かってくる男らに応戦し、千雪は持っていた傘で周りの男を振り払う。
工藤に殴り倒された男が、今度は立ち上がった良太に襲い掛かった。
ところが謎の男がそれを引き倒す。
男は倒れている良太を抱き起こした。
せつな、男からかすかに、おそらく上質のフレグランスの匂いがした。
このシーンにそぐわない気がして、良太は思わずその男の顔に見入る。
薄暗い外灯の下、後ろで束ねた髪、年齢は窺い知れない。
「こらぁ、そこで何やっている!」
大通りの方から声が聞こえ、警官らしい男が走ってくる。
続く一人はタクシーの運転手のようだ。
「やべぇ! 逃げるぞ」
襲ってきた連中が車に走って乗り込んだ。
工藤はそれを追って捕まえようとしたが、ドアが閉まりきらないうちに車は走り出した。
「あれ、さっきの人は?」
警官がたどり着いた時、良太はあたりを見合したが、もうあの謎の男はいなかった。
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