「やっぱりなかったの?」
「もう引き換え期間、終わってしまって、ないんだって……アライグマのスープ皿……あーあ…」
「アライグマがなんだと?」
大テーブルの傍で電話を終えた社長の工藤が眉をひそめて良太を見やる。
「コンビニでポイント集めると、アライグマのお皿がもらえたんです。でも昨日でキャンペーン終わったみたいで」
大柄な男は、しばし、良太をじっと見据える。
「幼稚園に入り直すのか?」
抑揚がないだけに、一層侮蔑的な言辞を弄し、出かけてくる、と工藤はオフィスを出て行った。
「亜弓に頼まれたんだよっ! へっ、若い女の子の繊細なハートなんか、到底オヤジなんかにわかりゃしないさ、トウヘンボク!」
思わずパーンチ! と工藤の出て行ったドアに向けて右の拳を突き出した。
亜弓とは、静岡に住む良太の妹である。
贔屓目に見なくても可愛いこの妹にはいささか頭が上がらない兄なのだ。
「良太、『共和通信』の打ち合わせ、三時になったからな」
またドアが開いて工藤が言った。
ふいうちに引っ込みがつかなくなった拳を宙に浮かせたまま、「は…三時ですね」と、『トウヘンボク』に答える。
お前の考えていることなんかお見通しだというせせら笑いを残して、再び工藤は消えた。
鈴木さんはいつものこと、と笑いながら自分の仕事に戻っていった。
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