すべてにおいて重厚な印象を受ける。
中央の大きな柱時計がゆったりと時を刻む。
なにせ広い。
秘書らしき女性が、かぐわしい香りの紅茶を運んできた。
生のチョコレートが小さなトレーに積み上げられている。
良太はチョコに手をのばした。
「うんまい~~」
思わず口にする。
「工藤さん、これ、おいしいですよ、食べないんですか? とろけ感が絶妙……」
「俺はいい」
工藤はソファに深く腰を下ろし、タブレットを開いてスケジュールチェックに余念がない。
うう~チョコなんかに気を取られてる場合じゃなかった。
でもこんなところで、やばい話なんかできないしな………
車の中で話したのは仕事のことだけだったし。
クッソ………
十分ほど待たされた。
「お待たせしました。お呼びたてして申し訳ありません、工藤さん」
工藤に習って良太も立ち上がったが、社長室から秘書を従えて現れた紫紀は、気さくに笑った。
京助をもっと知的に渋くした感じだ、と良太は思う。
工藤と目線が変わらないということはかなり背が高い。
ただし容易に詮索を許さないバリヤーがある。
髪は黒いが、紫紀はヨーロッパの雰囲気を持つ男だった。
「うちの広瀬です。私が参上できないときは、広瀬が参りますので、よろしくお願いいたします」
「広瀬と申します。よろしくお願いいたします」
良太は自分の名刺を差し出し、綾小路紫紀の名刺を受け取った。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。こちらは秘書の野坂です。私も不在にしている時が多いので、連絡などは野坂の方にお願いいたします」
一通りの挨拶を済ませると、野坂という背の高い青年を下がらせ、「どうぞお座りください」と紫紀はにこやかに言った。
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