俺の口からただ言わせたかっただけって気がするな~
「ほんと、さすがっすね」
振り返ると、隅で小さくなっていた小笠原のマネージャー真中が尊敬の眼差しで立っている。
「やっぱ工藤さんのあと継ぐだけあって、良太さんって何でもできるし、すげーなー」
真中は良太にとって青山プロダクションでは後輩と呼べる唯一の存在だろう。
谷川は良太よりあとに入社したとはいえ中途入社みたいなものだし、タレントは問題外だから、良太さん、なんて呼んでくれるのは真中の他にはいそうにない。
「あんなの、藤堂さんも考えていたことだ。俺の口から言わせて、クライアントをさりげなく納得させてるんだろ」
そんな羨望の眼差しで見られるようなすごい人間じゃない。
それに、何だよ、その、あと継ぐ、なんて。
あまり聞きたい言葉じゃない。
撮影が予定通り終わると、波多野や製作会社スタッフ、藤堂らに挨拶し、良太は小笠原、真中とともにスタジオをあとにする。
「波多野さんが、どうかしたんですか?」
波多野と挨拶を交わしてから、何気なくその後姿に目を走らせた良太に、真中が聞いた。
「え? いや……」
やっぱり、と良太は思う。
何か気になっていた。
その雰囲気に、どこかで見覚えがある気がしてならなかったからだ。
気のせい、かな……
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