「そんなものはいらん」
え、工藤、もう帰ってきてるんだ?
それに、あれは千雪さん………?
ぐっと車のキーを握る指に力が入る。
「ええやないですか、やつらが俺のことそう思うてるんやったら、思わせとけば。寄ってきたら逆に……」
「バカを言え。俺のことでお前を危険にさらせるか!」
良太は立ちすくんだ。
先日襲われたことを心配しているのか。
「俺が勝手にやるだけやし」
「待て、千雪!」
工藤の手を振り解いて駆け下りようとして、足を踏み外しそうになった千雪の腕をとっさに掴む工藤が、しっかり良太に見えた。
危うく千雪を抱きとめる工藤。
良太は息を呑む。
その時、千雪が良太に気づいた。
「良太……違うで、誤解すんな」
千雪の声が追いかけるが、良太はオフィスを逃げ出していた。
雪まじりの雨の中をせかせかとただひたすら歩いていた。
千雪には京助がいるからと思って忘れていた。
工藤は千雪を愛しているのだ、やはり。
わかっていたことでも目の前で見せつけられるときつい。
なんだ………やっぱそうだったんだよな……
どくどくと濁流のように荒れ狂うのは嫉妬。
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