工藤は結構参っていた。
自分が狙われているのはわかっているが、それが誰だかまだわからなかった。
理由はおそらく、『それ』しかないが。
だがそんな理由で、会社を、良太を巻き込むわけには行かない。
参ってしまうのは良太にもだ。
どうしてあんな、可愛いことが言えるのか。
お前を遠ざけようと、こっちは必死になってるのに。
俺の努力を端から無駄にしやがる。
工藤は苦笑いしながら、車を駐車場に滑り込ませた。
昨日から出ずっぱりで、良太の顔をまともに見ていない。
映画の撮影に利用するホテルを下見に行って横浜から戻ってきたところだが、疲労はたまるばかりだ。
目の前にすっと黒い影が立ちはだかったその時、はっとして工藤は身構える。
「……なんだ、お前か」
「俺で悪かったな。良太かと思ったのか?」
ふてぶてしくはき捨てたのは小笠原だった。
常々、言葉遣いはいい方ではないが、今はとげを含んでいるような言い草だ。
真夜中の二時をとうに過ぎていたことに、工藤はようやく気がついた。
エレベーターのドアが開くと、小笠原も乗り込んでくる。
「まさか、あんた、良太まで食ってたとは思わなかったぜ。それとも俺の勘違いか?」
きっと睨みつける小笠原を、工藤は平然と見返した。
「それがどうした?」
「てめー、真帆ならまだしも、何で良太なんか、あんなやつまで……どういうつもりだ?」
「お前が口出すことじゃない。真帆みたいなガキをどうしようなんざ、思ったこともない」
「じゃあ、千雪ってやつとはどうなんだ? 遊びなら良太を離してやれよ」
「お前の知ったこっちゃない。もう帰れ」
エレベーターが六階で停まり、工藤が降りる。
小笠原はエレベーターの中から、社長室の鍵を開ける工藤に向かって声を上げた。
「てめー、良太を泣かすんじゃねー」
小笠原が車で去る音を聞きながら、工藤は今更ながらに、良太がみんなから愛されていることを思い知るのだった。
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