夢ばかりなる42

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 工藤を見失ってしまったから今日の尾行はこれまでだな。
 とぼとぼと歩き出した良太は、後ろから勢いよく、腕を掴まれた。
「やっぱり、良太か」
「千雪……さん」
 メガネの奥から良太をじっと見つめ、良太が何か口にする前に千雪は言った。
「言うとくけど、良太の考えてるようなこととちゃうからな」
「俺に嘘ついても無駄です。嘘も方便、は俺には通用しませんから。千雪さんが嘘つきだって知ってるし」
「お前な………臨機応変、いうこと知ってるやろ? 心外な、俺は嘘つきなんかやないで。あん時はあれがベターな方法やったいうことやし」
 千雪が襲われた時、駆けつけた警察官に、襲われたのは自分だと言い、お陰で警官は工藤に対して興味を持たなかった。
 千雪も工藤を思いやっているのはわかる。
 工藤高広の名前がマル暴のリストから消えない限り、被害者となった時でさえ、工藤は痛くもない腹を探られることになる。
「笑ってもいいですよ。工藤の後つけたり。で、やっぱ工藤が千雪さんに会いにきたってことを思い知らされるなんて。ほんとバカなんだから、俺なんて」
「やから、そういうの、やめ、言うてるやろ? お前にそんな卑屈なこと口にしてほしいないんや」
「事実を受け止めようとしているだけですよ」
 ふうと一つため息をついて、良太は続ける。
「工藤が痛みを共有できる相手は千雪さんだけってこと……俺なんかに、これっぽっちもくれやしない」
 また、涙が溢れそうになり、良太は慌てて視線をそらす。
「まったく……」
 千雪は苦笑いを浮かべた。

 


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