「そろそろ客が来る時間だ。わかったらさっさと出て行ってくれ」
とっとと出て行けといわんばかりに波多野はドアを開ける。
出て行きかけて振り返った良太はもう一度尋ねる。
「待って…あんたは、工藤の味方なのか? それとも……」
「私は工藤の味方でも、敵でもない」
波多野の鋭い一瞥を最後に、良太の目の前でドアは閉じられた。
工藤の爆弾………か。
確かにそうかもしれない。
波多野の言葉を心の中で反芻しながら良太はエレベーターでフロントに降りた。
確かに、波多野の言うとおり、軽率だったかもしれない。
俺が何かバカをやったら、みんな工藤に返っていくんだ。
あああ、結局俺は口ばっかの能無しってことか。
「良太」
聞きなれた声に顔を上げる。
「行くぞ。いい加減、俺にドタキャンさせるのはやめろ」
「工藤……さん…」
怒っている。
当然、怒っている。
逃げ出したくなるのを良太はぐっとこらえ、たったか歩く工藤の後を追いかけた。
工藤は車を会社へと走らせると、エレベーターで七階へ上がる。
二階で降りようとした良太をそのまま自分の部屋に連行した。
「入れ」
くるぞくるぞ、と雷が落ちるのを覚悟した良太にかけられた言葉は、案外静かに「まあ、座れ」だった。
「はあ、でも、あの、接待……じゃなかったんですか? 今夜」
「スケジュールをよく覚えていたじゃないか。え?」
コートをソファに放り、にやり、と笑う工藤の目がキラリと光ったような………
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