「ほな、工藤さん、俺帰るわ」
え、男?
口にしたいのは山々だが、良太は痛みに顔を引きつらせただけだ。
「当分おとなしくしてろ! いいか、復帰したら倍は働けよ」
そう言い置いて、工藤はとっとと部屋を出て行った。
やっぱ非情なオヤジだぜ。
「待て、送って行く」
工藤があの美人に声をかけるのが聞こえた。
工藤の、知り合い?
ひょっとしてモデルとかかな? でも工藤が自分で送って行く、なんて珍しい。
それより、クビにならないのが不思議なくらいか。
あ~あ、結局入院費で今月ぱあじゃん。
頭も手足も包帯でぐるぐる巻きにされ、ちょっと動かすにも体中が痛い。
全身に打撲と擦過傷、それに首を絞められたのが生々しく思い出されるが、幸い骨には異常がなかったようだ。
その日の夕方、着替えや差し入れを持ってきてくれた鈴木さんに、アパートにいる猫の世話を頼んだ。
「申し訳ないです。俺がいない間、ナータンが心細い思いをしてると思うと、心配で心配で」
彼女は、わかったわ、と笑って快く引き受けてくれた。
結局三日間入院した良太が退院の手続きに行くと、おかしなことに、既に入院費は支払われているという。
しかも工藤自ら迎えにきてくれたのだ。
おいおい、天変地異でも起きるんじゃないだろうな。
「お前のアパートは引き払った」
車を発車させるやしゃっちょこばってナビシートに乗り込んだ良太に、工藤が言った。
「へ?」
「上の部屋が空いているから今日から入れ。社員寮だから部屋代はいらん。それから、お前のアパートのドアに張り紙してった業者には三千万、俺が立て替えて済ませといた」
「はあああ!?」
飛び上がりそうになって、まだ治りきっていない怪我がズキリと痛む。
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