お前の夢で眠ろうか 14

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 極悪非道どころか、すっげぇいい人なんだ!  なんて思ったのはつかの間、退院した良太には文字通り休む間もなく朝から夜遅くまで働かされる毎日が待っていた。
 顔を合わせた志村嘉人や女優の中川アスカでさえ「もう大丈夫なの?」と気遣いを見せてくれるのに。
 売れっ子女優とはいえ、我侭が服を着て歩いているようなアスカは、青山プロダクションの抱えるもう一人のタレントだ。
「あんの、冷酷オヤジ!」
 メールの処理をしながら口走る良太の後ろから、
「ほう、どのオヤジだ?」
 恐る恐る振り返れば、そこには栗色の髪のエグゼクティブが立っていた。
 ただし鳶色の目はただ者でなく鋭い。
「いえ、こっちの話で…」
「ついでにこのリストにある担当宛にメール送っといてくれ。それと番組進行チェック、忘れるなよ」
 書類をぽんと良太のデスクに置いて、工藤はオフィスを出て行った。
「チクショー! 俺の弱みを握ってると思って、死ぬまでこき使うつもりなんだ!」
 弁当を頬にくっつけたまま、翌日の昼休み、良太は鈴木さんに愚痴っていた。
「あなただからこそ、工藤さんにそんな口をきけるのね」
 そう言って笑う鈴木も、言葉遣いは非常に上品ながら、ゴミは分別しろだの、やれタバコの吸い過ぎだの工藤によく文句を言っている。
 パワハラだの何だの取沙汰されるようになって久しいが、工藤にかかっては言葉にするだけむなしいだけと思いきや、そんな時の工藤はまるで母親に叱られている子供のようで、良太は密かに溜飲を下げるのだ。
 それこそクライアントであろうが業界人であろうが、工藤にはやたらへこへこしている連中は多い。
 偉そうにしているわけではないのに工藤は威風堂々と見えるのだ。
 鈴木に対しての工藤の方がよほど小さくなっている。
 良太の肩書きは一応工藤の秘書ということになっていて、工藤のスケジュールも管理しているし、無理やりやらされた英会話のレッスンのお陰で国際電話にも平気で出られるようになったし、工藤のプライベートも徐々に把握するようになった。

 


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