「そんな! ただでさえ、破格の扱いなのに、そこまでしてもらうわけには行きません!」
「お前に倒れられたら、こっちが困るんだ!」
「申し訳ありません。今度はちゃんと自分で何とかしますから」
工藤は目を眇めて良太を見る。
「だからってまたおかしなバイトに手を出そうなんて考えてるんじゃないだろうな?」
「え、いや、そんな…」
ちょっとは考えないでもないという顔だ。
「そんなに良心の呵責に絶えねーってのなら、いつでも俺が客になってやるぞ」
「へ……ご冗談を……」
「てっとりばやくていいだろう?」
工藤はにやりと笑う。
「い、いやあ、まさかパパ活じゃあるまいし………」
「呼び方を変えたところでやることは同じだろうが。とにかく俺のカードを渡しとくから、何でもいいから食え。わかったな。使用期限はフリーだ。もし使わなかったら、肩代わりした金、即刻耳を揃えて返してもらうからな」
「そんなぁ……」
良太がまだ何か言おうと逡巡しているうちに、銀行のキャッシュカードを置いて病室を出てきてしまった工藤だが、自分で自分の言動にちょっと呆れてしまう。
「何を考えてるんだ、俺は」
ここのところ、仕事だけでなく、良太が例の脅しの件で頭を悩ませているのはわかっていた。
うわ言で人の名前を呼ぶくらいだ。
あんな真摯な目で人に心配されることなんて、ついぞなかった。家族のためなら身体を張るのも厭わない、そんなやつだ。
それで突っ走ってバカをやるから、つい構わないではいられなくなる。
あれだけ脅しておけばバカな真似はしないだろうが。
工藤は眉を顰め、周囲をビビらせながら病院を後にした。
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