お前の夢で眠ろうか 29

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 煙草の煙が鼻をつく。
 良太は身じろぎして目を擦った。
「まだ寝てろ」
 工藤は苦々しく煙草を噛んだ。
 病室ではちょっとした脅しのつもりで言っただけだ。
 俺がやらなけりゃ、と何もかも背負い込んでぎりぎりのところで生きている。
 寄りかかれるものは今の良太にはないだろう。
 自分でも不思議だが知らず知らず良太の世話をやいていた。
 目の前で裸で震えている良太は、懸命に虚勢を張っている雛鳥を思わせる。
 健気だとは思うが、まさかこういう展開になろうとは工藤自身も実は思っていなかった。
 良太が前に住んでいたアパートに立ち寄った時、猫一匹を話し相手にこの狭い部屋で、ひとりで暮らしているのかと、痛烈に感じたのを思い起こした。
 良太の心根が愛しい。
 だからこそ、あんな男に抱かれようとしている良太が許せなくて、で、つい勇み足に……。
「お前…、何でバックは未経験だって言わなかったんだ」
 工藤は煙草を噛みながら不機嫌そうに聞いた。
「何であんたにそんなこといわなけりゃなんないんだ! 悪かったな、未経験で!」
 良太は羞恥で真っ赤になりながら喚く。
 ひょっとしてと思い始めた時は後の祭りだった。
 男と関係していれば、当然だと思い込んでいた。
 これじゃ、俺が一番の悪党じゃないか。
 工藤は舌打ちし、ベッドを降りる。
 ギシ、とスプリングが音を立てた。
 サイドテーブルの灯りの中に、工藤の逞しい鍛えられた身体が薄明りぼうっと浮かぶ。
 青山プロダクションの三階にあるジムは、社員なら誰でも使用できるようになっている。
 時間がある時は工藤も利用しているようだが、良太が体育会系でしたなどと言うのが恥ずかしいほど、無駄のない筋肉に覆われた身体だ。
 フーン、これが大人の男の色気というやつね、と、他人事のように良太は心の中で呟いた。

 


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