お前の夢で眠ろうか 37

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 世の中は衆議院が解散し、総選挙を数日後に控えて街中を候補者を乗せた車があちこちでラストスパートをかけて行き交っていた。
 工藤が珍しく酔ってオフィスに戻ってきたのは、夜十一時を回った頃だった。
 隣の部屋のドアがガチャガチャいう音に気づいた良太は、こそっとドアを開けた。
「あ、お疲れ様です」
「おう、良太」
 そこに工藤の姿を認めて声をかけた良太だが、いきなりその腕を取られて工藤の部屋に連れ込まれた。
「え、ちょ、工藤さん!」
 廊下で部屋のドアが閉じる音がした。
「まあ、お前も一杯付き合え」
「いや、俺は………」
 工藤が酔っているらしいのはわかったが、足元がふらつくほどではない。
 怒りまくる工藤はいつものことだが、そんな風に目が据わって、しかも何か強い憤りのようなものを感じる工藤はあまり見たことがない。
 良太はひょっとして自分が何かとんでもないミスをしでかしたのではないかと思い巡らせたが、どうにも心当たりがない。
 とにかくここは変に逆らわない方が身のためと工藤の差し出したグラスを受け取った。
 きついブランデーの香りが鼻をついた。
 工藤は自分のグラスにも並々とブランデーを注ぐとそれを一気に空けた。
「飲まないのか?」
「あ、いや、いただきます」
 良太はコクリと一口飲んだが、飲みなれない強い酒の香りに少しむせる。
 工藤はそんな良太を見て、フンと鼻で笑ったので、良太はちょっとムッとした。
「す、すみませんね、どうせ俺なんか社長の付き合いなんかできませんよ。じゃ、俺、これで失礼しま………」
 言葉を遮ったのは不意打ちのキスだ。
 良太が手にしていたグラスが転げて絨毯を濡らした。

 


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