お前の夢で眠ろうか 4

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 そもそも彼の祖母は横浜の大きな地主の一人娘だったが、何と中山組の跡取り、つまり現組長の父親と結婚してしまったのである。
 実家の父母は娘と縁を切ったものの、その後、娘の二人の子供のうち妹を、物心ついた頃に養女に迎えた。
 それが工藤の母親だ。
 米軍兵士に騙されて工藤を生んだ母親も、工藤を育ててくれた曾祖父母も他界し、無論工藤は父親の顔も知らない。
 直接彼の面倒を見てくれたのは、時折、嗄れた凄みのある声で工藤宛てに電話してくる平造老人だという。
 横浜にあった土地家屋は売ったが、工藤は青山プロダクションのビルの他に高輪にマンションを持ち、軽井沢にある古い別荘は売らずにそのまま使っている。
 社員の一人でもあり、背中に倶梨伽羅紋紋を背負っているという噂の平造は、現在軽井沢の別荘に住んで管理人をしている。
 しかしながら、いくら縁を切っているとはいえ、広域暴力団中山組組長の甥という出自は常に工藤についてまわった。
 大学卒業後、彼が在京キー局の一つであるMBCテレビに入社できたのは、彼を可愛いがっていた大学の先輩がMBCにいて、財界の大物の息子であるその先輩の強い口添えがあってこそだったらしい。
 その先輩が親の会社を継ぐべくMBCを辞めるのと前後して、MBCテレビの敏腕プロデューサーとして業界に名を知らしめた工藤も局を辞め、曽祖父母から受け継いだ財を元手に今の会社を興したのだ。
 一口にプロデューサーといっても多種多様である。
 営業面で立ち回る専門の者もいれば番組やタレントにも影響力を持つディレクターよりの者、或いは名前だけという場合もある。
 工藤の場合、いろいろな駒を握り、業界にあっては「鬼の工藤」と異名をとり、総合的な影響力を及ぼしている。
 タレントを除いて社員は五人と会社の規模は小さくても、青山プロダクションは着実に揺るぎない地位を確保しつつあった。
「天涯孤独なんだ、社長って…」
 だからあんな横暴なんだ。
 そう、いざ蓋を開けてみれば、秘書とは名ばかり、パシリや運転手をやらされると思うと、英語教室に放り込まれ、週二回のレッスンだけでいきなりぽんと、ニューヨークへお使いに行かされる。
 家族のため金のためと思えばこそ、良太は横暴社長にブーたれながらも体を動かしているのだ。

 


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