「例の有閑マダムはどうしたよ? ボス。ちょっとしたラブアフェアには事欠かないくせに」
俊一がニヤニヤと口を挟む。
「でも本命はそう簡単に落ちないから価値があるのよね」
万里子が意味ありげな視線を工藤に向けた。
ホンメイハカンタンニオチナイ……
やっぱ工藤の本命ってこの小林先生!?
愕然と良太の頭の中で閃く。
何て優しい目で見るんだろう。
工藤があんな優しさを他の誰に向けるっていうんだろう。
「良太ってば、どしたん?」
ばんっと、背中を叩かれて良太は我に返った。
アスカが心配そうな顔で良太の顔を覗いている。
「あ、うん、平気…」
「平気って顔じゃないわよ。工藤さん、良太こきつかってるでしょう? こんなに痩せちゃって」
「これしきでくたばるようなヤワなやつは、うちにはいらない」
しれっと工藤は言い捨てた。。
「でも、ね、もう休んだら? 今夜は内輪だし、片づけなんか明日でいんだから」
足元から崩れそうな気がする。
「あの…すみません、そうさせてもらってもよろしいですか? 社長…」
良太は何とかそう口にした。
アスカの提案に便乗してしまおう。
「仕方ねぇな」
工藤は不機嫌そうに頷いた。
「お先に失礼します」
今日はもう工藤の顔を見るのも辛い。
良太はぺこりと頭を下げ、ドアに向う。
「そっか…俺なんか始めっから眼中になかったわけだよな…」
リラクゼーションルームを出ると、ぼやける視界を振り切るように天井を見つめながら良太はぽつりと呟いた。
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