パリから戻ってからは、奈々のマネージャーとして谷川も仕事に慣れてきたし、良太の忙しさも一時期程ではなくなった。
収拾がつかないままなのは良太の心の中だった。
社長室でスケジュールの打合せが済むと、部屋を辞する前に、良太はあの、と切り出した。
「何だ?」
「これ、お返しします。長いことありがとうございました」
工藤は差し出されたキャッシュカードをしばしの間見つめていた。
「返すのはいつでもいいと言っただろう」
「最近は割とまともな食生活できるようになりましたし、お世話おかけしました」
良太はカードをデスクに置いて、ぺこりと頭を下げ、お先に失礼します、とさっさと部屋を出て行った。
工藤は良太が置いていったカードをしばらく手で弄んでいたが、ようやくそれを財布に仕舞う。
カードと一緒に良太は自分との関係を一切返上したわけだ。
工藤は深々と椅子に座り直した。
八月のパーティの時、奈々と良太の仲睦まじいようすに思わずかっとなっている自分には呆れた。
ましてやあのジャックの野郎を本気で殴り倒さなかったのが不思議なくらいだ。
だが、あいつの子供じみた定期入れに大事そうに入っていた写真……。
年がいもなく振り回されたもんだ。
しかも、あんなガキに……。
工藤は首を振る。
「全く俺としたことが…」
工藤はふふんと笑い、目を閉じた。
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