「組のもんどころか、新宿のホテルに入ってった工藤を誰が訪ねるかと張ってたら、女だ。その顔をどこでみたのか思い出したのさ」
「そんなの、プライベートだし…」
「こりゃ、ナカナカ金になるネタだ。ヤクザと代議士夫人の組み合わせなんて」
谷川は鼻で笑う。
「工藤さんはヤクザじゃない」
「お前もあのヤクザのお零れにあずかっているクチだろ? 知り合いの記者に売りつければ飛びつくな」
夫人のことは知らないが、工藤が危機に晒されるのを黙って見ていられない。
「もしかして……」
元刑事の谷川なら、できないことはない。
じゃ、村田ゆかりとは関係なかったのか?
「あんたか? 社長を襲ったの! 始めからそのつもりでここに入ったのか? あの脅迫状もあんたなのか!?」
良太は谷川を睨みつけた。
「何のことだ?」
「しらばっくれるな! これ以上、社長に指一本触れさせねーぞ!」
「ごりっぱな忠犬だな」
良太を嘲るように言い捨てると、谷川は踵を返してドアに向う。
良太は慌てて追いついて、谷川の前に廻り込んだ。
「ばかなこと、やめろ」
「どうせ、こんなとこ続くとは思ってないしな。ちょうどむしゃくしゃしてたとこだ」
谷川は良太の肩を押し退けた。
良太は谷川の腕を掴んで行く手を阻む。
「お願いだから、やめて下さい」
懇願する良太を、谷川は、退け、とつき飛ばした。
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