お前の夢で眠ろうか 75

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 痛みは遅れてやってきた。
 自分の腹の上に、血に滑ったナイフ。
 鋭い閃光が目を射る。
 俺、死ぬのかな? ここで…
 死ぬの、やだよ、工藤さんに、俺、もっかい会ってからじゃねーと。
 意識が掠れていく。
「良太!」
 都合よく工藤の声が聞こえる。いよいよ幻聴だろうか。
「良太! 良太! しっかりしろ! 良太!」
 工藤さんがすぐ傍にいるみたいだ。
 目を開けると、そこに懐かしい鳶色の目がある。
「ウッソォ…シャチョー………」
「しっかりしろ。今、救急車来るからな」
「シャ……工藤さん、俺、死ぬ前に、言っときたいことが…」
「黙ってろ。こんなとこでくたばってたまるか。何度電話しても出ないし、焦って来てみれば…」
 工藤は良太の頭を抱え、優しく撫でさする。
「俺、死んだら、保険金五千万、工藤さんに入るから…安心して」
「バッキャロ! 誰が安心なんかするか! んなもん、受け取ってたまるか」
「受け取ってくれねーと、俺、死んでも死にきれねー…」
「死ぬ死ぬ言うな! バカヤロ!」
 工藤はそっと良太の額に口づける。
「くどーさ…」
「黙ってろ」
「俺じゃ、相手になんないのはわかってる…けど、工藤さんの…本命になりたかったんだ……もう一度、ぎゅって…してほし…」
 良太の身体から力が抜けた。
「良太、良太! しっかりしろっ!! 死んだら許さねーぞ」
 滅多に動揺しないはずの工藤の必死な声が遥か遠くの方へ消えていくのを、良太は最後に感じていた。
 スローモーションのように東京の夜景が揺れて。
 いいや…、これくらいしか、俺には工藤さんにしてあげられねーし…
 そんな呟きは工藤に聞こえただろうか。

 


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