お前の夢で眠ろうか 9

back  next  top  Novels


 工藤のジャガーをいつも置いている一階裏の駐車場に入れ、警備員に挨拶してビルを出ると、良太は地下鉄への階段を駆け下りた。
 警備会社から会社へは昼夜交代で二人の警備員が派遣されている。
 あらゆる意味で、工藤という男には必要なのだ。
 仕事も工藤の横暴も慣れれば何のことはない。
 もともと後ろは振り返らずひたすら前を向いて歩くのが信条の良太だ。
 野球でも直球一本にこだわってきた。
 だがいくら給料がいいとはいえ、半分の二十万ずつ返していっても借金は三千万。
 どんどん利子が膨らむばかりだ。
 学生の時から住んでいる本郷のアパートにも取り立ての連中が現れ、張り紙したり大声で金返せと怒鳴ったり、嫌がらせをしていく。
 曲がりなりにも大学で法律を学んできた良太だが、そういう連中には法律なんかどこ吹く風なのだ。
 法律でもし仮に自分がこの状況から脱することができたとしても、ああいう連中は、今度は親戚に身を寄せている妹を探し出してターゲットにするかもしれない。
 そんなことを考えると、正攻法で行くのも躊躇われるものがあった。
 仕事が終わった後、できる時だけと融通がきく店を探してバイトを始めたのが二ヵ月前だった。
 これも焼け石に水状態で、確かに下柳に指摘された通り、良太は心身ともに疲れ、体重が落ちていた。
「もうちょっと、実入りのいいバイトないかな」
 良太の独り言を聞きつけたバーテンがある日紹介してくれたのは、男の子を男に斡旋しているといううさん臭い男だった。
「え、でも、俺、そーゆーのは、その……そんなきれーっぽくないし、やっぱ…」
 さすがに良太もこの話にはびびった。
「平気平気。なに、あんたなら十分いける。金、欲しいんだろ?」
 ええい、減るもんじゃなし。
 いちかばちかでOKしてしまってから良太は後悔した。
 さすがにこのままどこまで堕ちるのだろうと、心の片隅では不安にかられていく。

 


back  next  top  Novelsyumede

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村