良太としては極力丁寧に挨拶し、プロデューサの肩書きの入った名刺を差し出した。
またしても人を食ったような表情で良太に無遠慮な視線を向ける有吉は、その名刺をちょっと指でつまんでジャケットのポケットに突っ込んだ。
このやろう、名刺でも破いたらどうしてくれよう、と良太も敵愾心剥き出しで睨みつけたが、当の本人は、フン、と鼻で笑って傍らの椅子に陣取った。
抑えろ抑えろ!
良太は自分に言い聞かせる。
実に藤堂の選球眼は確かだと、自分の性格を当てて見せた藤堂の言葉を思い出す。
今までも、かっとなって直球勝負を挑み、場外ホームランを打たれて痛い目を見たことが何回あったことか。
沢村のドヤ顔までが思い出されて、良太は心の中で慌てて追い払う。
打ち合わせ自体は、問題もなく進み、音楽担当に関してだけ、工藤が数人のアーティストに絞って交渉中だと告げた。
「おい、『花の終わり』の方は、順調か?」
打ち合わせが終わると、工藤が聞いてきた。
「はい、今のところは、来週頭にクランクアップで、翌火曜日の十四時から、ホテル赤坂で記者会見の予定です」
「そうか、頼むぞ」
たったそれだけ言葉を交わすと、工藤はたったか局を去った。
良太には下柳たちと別件で打ち合わせが残っていた。
つい、そんなすがるような目をしたのだろうか。
「泣くなよ、良太ちゃん」
下柳にからかわれて、はっと我に返る。
「何で俺が泣くんですか」
「ふん、そんな顔してたからさ」
「してませんよ」
別件で仕事が入っている有吉は帰り、結局、下柳やカメラマンの葛西らと一緒に打ち合わせの後飲みに行くことになった。
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