「へえ、戦場カメラマン?」
そこで初めて良太は有吉という男の経歴を下柳から聞いた。
有吉奏、三十六歳。名前はかなえだが、ソウ・アリヨシで名前は知れ渡っているらしい。
アフリカや中東の戦場を潜り抜け、報道写真を撮り続けてきた男だという。
確かに有吉の鍛えられたたくましいからだの腕に垣間見える傷跡からでも十二分に頷けるものがあった。
レッドデータアニマルを撮るようになったのは、戦場で傷つけられているのは人間ばかりでないことを確信したからだという。
それにしても何故有吉は良太に対して挑戦的なのだろう。
そんなことを口にすると、すっかり出来上がった下柳が笑った。
「そりゃ、良太ちゃんがかわいいから、ついからかいたくなるんだろ」
「何ゆってんですか、こっちは真剣に…」
いずれにしても、スタッフの中で有吉とうまくやっていけるかどうか、ちょっと自信のない良太だった。
久しぶりに飲んでわいわい騒いで、ちょっとばかり気分がよくなったまま、会社であり、自分の部屋のある乃木坂の自社ビル前でタクシーを降りた。
「うっわ、寒っ!」
酒のせいでからだが温まった気がしてコートを脱いでいたが、思わずそれをぎゅっと抱きしめる。
守衛さんに挨拶して、エレベータに乗り込もうとした良太は、表通りでまた車が停まったらしい音に振り返り、柱から通りを覗いた。
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