ちょうど工藤がタクシーで帰ってきたところだった。
今夜は気分がいいから、雷オヤジに声をかけよう、なんて良太が思った時だ。
「工藤さん」
工藤の背後から歩いてきた男が声をかけた。
しばし工藤はオフィスにも入らず、その男と何か話していたが、すぐに二人でどこかに歩いていった。
「誰だ? あの男……」
良太は首を傾げるが、その顔に見覚えはない。
昔の事件を辿るかのように胸騒ぎがした。
その二日後、またぞろビル風が舞う朝のことだ。
オフィスに唐突に山野辺芽久が現れたのだ。
「ちょっと、高広はどこ?」
相変わらず図々しくかつ我が物顔の芽久の振る舞いに良太は面白くなかったが、そこは良太も抑えて、出かけていていないことを告げる。
「じゃあ、待ってる」
「いつになるかわかりませんよ」
一応言ってみるが、芽久は意に介さない。
今日、工藤はオフィスに顔を出すとは言っていたが。
だが、良太は芽久のようすがどうやらいつもの単なるわがままではない、何かしら怯えたような表情をしているのに気づいた。
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