珍しく夕方早い時間に帰っていた工藤あてに、下柳から電話が入った。
良太が振り返ると、立ったまま受話器を握り締めていた工藤は一瞬絶句していた。
下柳が知らせてきたのは、青山プロダクションの仕事には起業当初から携わってきた映像制作会社の社長の訃報で、自殺だったという。
従業員十数名、外部要員も数十人くらいいただろう、良太が覚えているのはスタッフもいつも賑やかで明るい顔ばかりで、当の社長は工藤より少し上くらいだろうか、年末の慰労パーティで騒いでいたのは記憶に新しい。
工藤がまだMBCに在籍していた頃からの古いつき合いらしく、本人も時折会社に電話をかけてくるその細君も明るい人柄だったはずだ。
工藤に伴って良太も葬式に出向いたが、憔悴しきって放心状態の細君の横で、眼を真っ赤に泣き腫らした中学生の女の子が小学生の弟の手をしっかり握っていたのが、身につまされた。
「昔っから、そう潤ったことなんぞなかったが、ここ数年、かなりきつい状態で、そこへきてレギュラーで入ってた番組の下請けが年度末の改編で打ち切りになったのがひびいたらしい」
ただでさえ少ない給料でやってくれている社員や外部スタッフのことを思い、それこそ金をかき集めたが、何件かの消費者金融にかなりの借金があった上、今後の見通しが立たなくなったことが直接の原因だという。
下柳は「チクショ」とやり場のない憤りとともに吐き出した。
会社は倒産、生命保険で借金はチャラになり、いくばくかの金が社員やスタッフに渡ったものの、家族に残されたのはマンションと車のみ。
しかもまだ何年も先まであるローンつきだ。
やがて細君が落ち着いた頃、工藤が仕事先を世話し、今は夫の残したマンションを守るべく、仕事を始めたらしいと良太は耳にした。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます